三菱電機は9月12日、同社が開発した共通鍵暗号アルゴリズム「MISTY」ファミリに、既存のMISTYとは用途の異なる2つの新たな暗号アルゴリズムを追加したことを明らかにした。実装サイズがMISTYの半分と小さい「BRUME」(ブリュム)と、高速処理が可能な「BROUILLARD」(ブルイヤール)である。
MISTYは同社が1995年に発表した共通鍵暗号アルゴリズムである。共通鍵暗号の解読に用いられる差分解読法や線形解読法に対する強度を考慮して開発した。1993年に同社が線形解読法を用いて解読に成功した米国標準アルゴリズム「DES」(Data Encryption Standard)よりも安全性が高い。ブロック長64ビットに対する暗号化鍵の長さも、DESの56ビットに対してMISTYは128ビットである。
今回新たに発表したBRUMEとBROUILLARDは、既存のMISTYでは適さない特定の産業用途の需要に応える。BRUMEは、プログラム・コードが1Kバイト以下、基盤サイズが3Kゲート以下であり、MISTYの半分のサイズしかない暗号である。「10Kゲートを切れば小さいと言われる業界で3Kゲート以下はライバルがいない状態」(三菱電機情報技術総合研究所情報セキュリティ技術部長の松井充氏)だ。直近に予定する実装は、自動車のキーへの搭載である。自動車の鍵にBRUMEを搭載し、自動車と鍵の間の認証に利用する。
もう1つのBROUILLARDは、ソフトウェアとして半導体メモリ上で動作させることにより、MISTYの約10倍の速度で高速に動作する。Pentium 4(3GHz)なら1Gバイト/秒を処理できるという。「ライバルは米RSA Securityが開発したRC4(Rivest's Cipher 4)だが、BROUILLARDの方が安全で高速だ。速度はRC4の3倍」(松井充氏)である。直近に予定する実装は、監視カメラからサーバ機への映像転送である。いずれはRC4同様に、汎用的なパソコンと汎用プログラミング言語に向けたライブラリを配布する。
9月12日の発表会では、BROUILLARDの暗号化の速度を実演した。忙しく動くモービル玩具のカメラ映像を、3DES、BROUILLARD、MISTYの3つの異なる暗号化アルゴリズムを用いてリアルタイムに暗号化/複合化して映像のコマ落ち状況を見せた。3DESはコマ落ちが激しく、MISTYも若干のコマ落ちが見られた。一方、BROUILLARDは、記者の目ではコマ落ちが確認できなかった。