ドリーム・アーツは7月21日に、年次ユーザーイベントを都内のホテルで開催した。特別講演に、2020年東京五輪の新国立競技場の設計者、隈研吾氏が登壇し、「有機主義」に基づいて設計したエピソードを紹介した。
新国立競技場の設計にあたり、木を使用した温かみのあるもの、しかもできるだけ国産の木を使用することで、日本の山、森林、川、海などの自然の体系を再生させるためのきっかけにしたいと考えたという。
建築家の隈研吾氏
有機主義とは単に有機的な、やわらかい形をしているものではなく、建築物そのもの、またその建築技術が環境全体の一部にならなければならないという。
建物自体が目立つのではなく、周りの環境と自然に融合する――それが有機主義とのこと。例えば、宮城県石巻市の「北上川運河交流館」は、環境の調和を目的として北上川の土手に埋蔵されたミュージアムで、建築の3分の2が土手に埋もれている。一見、建物がどこにあるかわからないように設計されており、地形と建物を有機的に連続させた作り方になっているという。
イタリアミラノサローネでのパビリオンは、「千鳥(CHIDORI)」という細い木製の角材を格子状に組み合わせる日本の伝統技術をもとにつくられた。釘や接着剤を一切使わずに強度のある構造物となっているという。
また、福岡県大宰府のスターバックスは、日本の木組み、日本の職人でしかできないことをやろうという試みで設計。この木組みは飾りではなく、これが構造体となって全体を支える高度な技術という。こうした技術はコンピューターの解析があって初めてできるもので、現在は観光名所にもなっている。
最後に紹介したのが新国立競技場だ。明治神宮の森を主役にし、自然と調和するために、まずは建物を49メートルと低く抑えて設計するところから始めた。
新国立競技場の仕様の一部
構造のヒントになったのは、1400年もその構造を保ち続けている日本の木造建築「法隆寺の五重塔」。外側はもちろん、その下にひさしで影をつくり、そこに緑を植えた外観になる。
現代の最先端の技術があって初めて設計可能になるもので、電力も太陽光で賄い、またエアコンなどの空調を使わずに自然の風にて心地よく換気できるように設計した。基本となる素材「木」についても、できる限り福島や熊本などの被災地の木材を使用するという。
1964年の東京五輪で、丹下健三氏が設計した代々木体育館を見て建築家を志したという隈氏。この代々木体育館は、当時世界の最先端の建築技術を駆使した、工業化社会の技術の結晶だったことを考えると、2020年の五輪では、その時代とは対極的な哲学の元に建築物を設計することになると説明した。
電力も太陽光で賄い、またエアコンなどの空調を使わずに自然の風にて心地よく換気できるように設計した。隈氏は、新国立競技場について「有機主義の建築の1つのシンボルになれば」と話している。
有機主義的経営
ドリーム・アーツの代表取締役社長、山本氏(左)と隈氏
隈氏に先立って基調講演にのぞんだのは、ドリーム・アーツの代表取締役社長、山本孝昭氏だ。山本氏は有機主義を、根っこのしっかり張った木と表現。
昨今の市場競争の特徴として、業界や業態の線引きができなくなっていることを挙げる一方で、根っこが小さく、弱いものが乱立している状態ではないかと考えているという。
さらに、山本氏が長年在籍したインテルでの話を、1994年に配られた「いわくつき」プレートを見せながら紹介した。
1994年に配られたという「いわくつき」プレート
当時、Intelのプロセッサに不具合が見つかり、社会問題化した。その際、当時社長のAndy Grove氏は非を認め、リクエストがあればすべての機器のチップを変更すると宣言し、対応を始めた。数カ月後、それを示すプレートが4万人の社員に送られてきたという。
「ダメな会社は危機でつぶれ、良い会社は生き残り、偉大な会社はより向上する」
不具合対応で混乱する中で、このメッセージを入れたプレートを作成し、全社員に配った。失敗しても全社を挙げてやり遂げるという姿勢を明確にしたと当時を振り返る。山本氏は、しっかり根を張った有機的な組織の具体例として紹介している。