仕事でノートPCを使い始めたRam Viswanadhaは、古くさいデスクトップPCを棚にしまい込み、二度と使用しないと心に決めていた。ノートPCは、サイズにおいても、スピードやメモリ容量においても、これまでのPCとは比べものにならなかったからだ。
30歳になるSilicon ValleyのソフトウェアエンジニアViswanadhaはしかし、4年間にわたりラップトップの前で背中を丸め続けた結果、同じ運動を異常なほど繰り返すことにより起こる反復運動過多損傷を負い、3カ月の療養休暇を取るはめになるとは予想だにしなかった。
Viswanadhaのケースは、職場における人間工学の観点から見て最悪の例だが、国内の医師や人間工学専門家らは、今日ではこうしたことは珍しくないと話している。医師の話では、デスクトップPCの代わりにノートPCを使用して、1日の業務のすべてをこなすようになれば、痛みやこり、怪我などに悩まされるホワイトカラー労働者が増加するという。
「ノートPCは、デスクトップPCの代替となるようにはデザインされていない」と語るのは、コーネル大学のHuman Factors&Ergonomics LaboratoryディレクターAlan Hedgeである。「ラップトップは、出先などで予備的に使用するために設計されたものだ。1日8時間、年間52週間、仕事で毎日使用するようには作られていない」(Hedge)
米労働統計局の発表によると、民間企業に勤める9200人以上の労働者が2003年に、キーボードの使用に起因する負傷で1日以上仕事を休んでいるという。また、このうち92%は、仕事中の姿勢が原因でこうした負傷を負ったという。また、1カ月以上の休職に追い込まれるケースは全体の3分の1を占めた。
ノートPCの使用に起因する負傷についての統計データはほとんどないが、医師らは、ラップトップを過度に使用し続けたと訴える新たな患者が引きも切らないと述べている。ノートPCの売れ行きが好調なことを考えれば、これは驚くには値しない。市場調査会社IDCによると、2004年のノートPC世界出荷台数はおよそ4900万台で、2000年から倍増しているという。またIDCは、現在のノートPC販売台数はコンピュータ市場の4分の1以上を占めており、2008年までにはアメリカ国内でデスクトップPCとのシェアの逆転が起きると予測している。
ノートPCの最大の問題点は、画面とキーボードが非常に近くに配置されているということだ。周辺機器を利用しない場合、ユーザーには2つの選択肢が残されるが、そのいずれも姿勢の改善にはつながらない。すなわち、首を前に傾けてモニターを見るか、マシンを目の高さに合わせて使用するかということになるが、どちらにしても肩や腕に負担がかかってしまう。
さらに、キーボードが非常に小さいため、手指の配置がおかしな格好になり、手首の損傷が起こる。
ペンシルベニア州フィラデルフィアの郊外にあるハバータウンに在住する整形外科医Nicholas DiNubileは、「これらはすべて身体に、特にその筋骨格系にダメージを与えるための処方箋のようなものだ」と話している。