同講演における他の興味深い点は以下の通りである(Life, Liberty, and Technologyのご厚意により抜粋)。
- 同氏は、人々が自動車に費やす時間よりも、パーソナルコンピュータとやり取りする時間の方が多くなるという日が数年のうちに来るだろうと述べている。今となっては当たり前のことであるが、当時は信じ難い内容であった。
- 同氏は、テクノロジに対する社会の親密度が、パーソナルコンピュータとの「初デート」に相当する状態だと述べている。同氏は近い将来、人々がテクノロジの快適さを実感するようになるとともに、テクノロジというものが進化し続けていくことを感じ取っていた。今振り返ってみると、テクノロジが成熟し、PC業界が比較的安定し始める頃には、同氏は「次の大きなトレンド」となるものに力を注いでいたのである。
- 同氏は、パーソナルコンピュータが新たな通信手段になるということを自信ありげに語っている。これもまた、ネットワークが一般的になったり、インターネットが普及する兆しすら見えていない頃の話である。にもかかわらず、同氏は初期の電子メールシステムについて具体的に語り、それがどのようにコミュニケーションを変革していくのかという点に言及している。また、無線接続されたポータブルコンピュータが登場する頃には、人々はどこからでも電子メールを読み書きできるようになっていると、さも当たり前のように述べている。これも1983年という、モバイルコンピューティング時代が到来する20年以上も前の話である。
- 同氏は初期のネットワークと、さまざまなプロトコルが存在したことで引き起こされていた当時の混乱についても言及している。オフィスにおけるネットワーク問題が「解決」されるまでにおよそ5年の時間が、そして家庭におけるネットワーク問題が解決されるまでには10~15年の時間が必要になるだろうというのが同氏の予測であった。その予測は極めて正確なものだったと言えるだろう。
- 同氏は、「驚くほど性能が高く、20分で使い方が学べるコンピュータを、持ち運び可能な1冊の本程度の大きさで実現する」というのがAppleの戦略であると述べている。これはわれわれが今日親しんでいるものとよく似ているのではないだろうか?またAppleは、人々がケーブルを引き回すことなく「より大規模なデータベース」や他のコンピュータと通信できるよう、そういったコンピュータに「無線接続機能」を搭載したいとも考えていた。
- 同氏は、揺籃期にあるソフトウェア開発業界と、レコード業界を比較している。同氏によると、ほとんどの人たちは、自らの購入したいコンピュータがどういったものであるのかを必ずしも理解しているわけではないのだという。一方、レコード店に足を運ぶ人たちは、どういった音楽が好みなのかをはっきりと自覚している。これはラジオを聴くことで音楽の無料試聴を行っているためだという。同氏は、ソフトウェア業界にも購入前にソフトウェアを試用してみることのできる、音楽界におけるラジオ放送のような仕組みが必要だと考えていたわけである。また同氏は、ソフトウェアがデジタルなものであり、電話回線を通じて電子的に転送可能であるため、従来のような実店舗を通じたソフトウェア流通は時代遅れなものになると確信していた。つまり、電話回線経由のクレジットカード決済によって、ソフトウェアの支払いが自動化されるという未来を垣間見ているのである。あなたがどう感じるかは分からないものの、筆者はこれがAppleの「App Store」のコンセプトに驚くほど近いものであると感じている。さらに、音楽業界との比較は、「iTunes Store」を予期させる内容とも取れるかもしれない。講演に耳を傾け、こういった流れの全容をあなた自身で感じ取ってもらいたい。
- 質疑応答の最後で、同氏が実現は10年以上先になると確信していた音声認識に関する質問がなされている。今日の「Siri」の状況を考えると、同氏が言語認識は文脈に依存するという観点に立ち、言語認識と音声認識を比較しながら、その難しさについて語っていることは興味深い。同氏は「こいつは骨が折れる」と述べている。
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。