ロンドン五輪に見る大規模通信インフラ構築事情

怒賀新也 (編集部) 2012年11月22日 18時40分

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 2012年もまもなく師走に差し掛かろうとしている。今年のトピックの1つは8月に英国で開催されたロンドン五輪およびパラリンピックだ。日本勢は金メダルこそあまり取れなかったが、メダル総数は38個でアテネ五輪を1つ上回り史上最多だった。開会式や閉会式のセレモニーを見ると、国同士の戦いという前に、人類が今後も和やかに過ごしていくためのお祭りという要素があることが分かる。そのあたり、「戦争する代わりに……」などと物騒なことを言う人もいるサッカーW杯との違いかもしれない。

 スマートフォンの世界的な普及と、それと連動してユーザー数を増やすソーシャルメディアの台頭により、オリンピック運営における通信インフラの構築がこれまでよりはるかに重要になってきた。この品質次第で大会の様子の伝わり方は変わる。ある意味で「人類の平和を賭けたミッション」と言えるかもしれない。

ロンドン五輪でブロードバンド、Wi-Fi、音声通話、テレビ放映などすべての通信インフラに関して運営管理の責任者を務めたハワード・ディッケル氏
ロンドン五輪でブロードバンド、Wi-Fi、音声通話、テレビ放映、などすべての通信インフラに関して運営管理の責任者を務めたハワード・ディッケル氏

 ロンドン五輪のネットワークインフラ全体を構築したのは、英通信キャリアのBritish Telecom(BT)だ。ロンドン五輪でブロードバンド、Wi-Fi、音声通話、テレビ放映などすべての通信インフラに関して運営管理の責任者を務めたハワード・ディッケル氏は「大会中のツイート数が1億5000万に上った」と振り返る。1日のツイート数が2008年開催の北京大会の全ツイート数よりも多かった。オリンピック関係者による会場内からの通話数は50万回に上ったという。BTが放送局向けにライブで競技を配信した時間は実に5000時間に及ぶ。

 英国は男子個人自転車競技で大会初の金メダルを獲得した。この時、BTのリテールブロードバンドネットワークは史上最大のトラフィックを経験したという。BTはトラフィックを分析し、大会中に最も注目を集めた瞬間として「テニス男子シングルスで英国人のAndy MurrayがスイスのRoger Federerに勝ち金メダルを獲得した瞬間」「Lizzie Armisteadがロードサイクリングで英国チーム初のメダルを獲得した瞬間」「トライアスロンでのAlistairおよびJonathan Brownlessの活躍」の3つを紹介。ネットワーク管理のノウハウにより、こうした場面にも対処できたとアピールする。

公式サイトは約400億PV

 BTは大会のウェブサイト「london2012.com」のホスティングも担当した。世界中から大量のオンライントラフィックがあり、それに対応する必要があった。大会中のページビュー(PV)は、オリンピックが383億PV、パラリンピックが13億PVの計396億PV。2010年に開催された冬の五輪であるバンクーバー大会と、FIFAワールドカップの合計よりも多かった。訪問者数は4億5000万、大会中に1451テラバイトの情報が配信されたという。

 Webセキュリティ面でも記録的だった。毎日少なくとも1つ以上のハッカー攻撃が発生。london2012.comへの攻撃に対して、BTは毎秒1万1000の不正リクエストを防御した。これに対し「ダウンタイムやセキュリティ侵害を一切発生させなかった」(ディッケル氏)ことを強調する。

 このように記録的な通信負荷を処理する必要のあったロンドン五輪のインフラとして、BTは競技場を含めた英国全土の全94会場を8万回線によるネットワークで接続した。毎秒60Gバイトに上るデータ通信量を処理するべく、英国内に新規で5500キロメートルに及ぶ回線を新設した。電話回線数は1万6500、携帯電話回線1万4000、映像用コネクションは1万に上った。インフラの構築工数に8万人日をかけたとしている。

通信インフラは現地に残る

 未来につながるインフラも残した。BTは選手村にある2818の宿泊施設に光ファイバのネットワークを構築。それにより大会期間中、関係者は高速なブロードバンドを利用できた。今後は、これを現地に住む人々が活用できるようになる。

 もし、インターネットを使うはずのなかった人が使い、その結果として何か価値のあるものが生まれるとすれば、それも五輪開催の立派な意義だといえる。

 ディッケル氏は、ロンドン五輪を終えての反省点について「Wi-Fiネットワークのテストをもっとしておけばよかった」と話す。一般に、一定の場所で多数のユーザーが利用する高密度なWi-Fi環境は構築が難しい。「Wi-Fiは使われ方が進化するため、6カ月というテスト期間でできることは限られていた」と振り返った。

 オリンピックとパラリンピックを合わせた規模は、一般的な世界選手権大会の46回分に相当するという。今後インターネット人口が世界的に増え、オリンピックほどではなくても、大規模なイベントが通信インフラの完備を前提に開催されていくことは間違いない。ロンドン五輪でBTがそれを切り盛りし、大きな障害もなく、無難に役割をこなしたことは、世界が共有し得る1つの財産といえるかもしれない。

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