エリック松永のメディア・デモクラシー講座

2015年紅白歌合戦の視聴率とデジタルの相関関係

松永 エリック・匡史(プライスウォーターハウスクーパース) 2016年01月17日 09時07分

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 2015年紅白歌合戦の視聴率が発表されました。第2部(午後9時~同11時45分)が関東地区で39・2%で、市場最低を記録したそうです。個人的にはインターネットの出現によって急激に変化した市場環境の中、テレビ離れの時代にこれだけの視聴率を取れたことは評価すべきとは思うのですが。

 注目すべきなのは、視聴率を過去と比較することではなく、同時に放送された時間帯のコンテンツで見てみると、面白いことが分かります。


 関東地区の最高は、AKB48のパートで卒業メンバーの前田敦子と大島優子がサプライズ登場した後から、次のEXILEにつなぐ間の時間帯に記録した43・4%でした。これは、視聴者がより観たいものをピンポイントで観る視聴傾向を強く示しています。「観たいところだけを観たい」というのは、今に始まったことではありません。

 自分の子ども時代を思い出してみれば、違う部屋の別々のテレビをつけて、兄弟やおじいちゃんなどがその番組を観て、そのシーン(皆が観たいシーン)が来た時に大声をあげて家族を呼ぶような感じでした。この場合、一人の「犠牲者」が必要なので、なかなかうまくいきません。そんな経験をした方も、少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。

昔と今の違い

 もともと、観たいシーンをピンポイントで観たいのは当たり前の欲求であり、今も昔も変わりません。では、今は何が違うのか。それは、ピンポイントで視聴するためのコミュニケーションとツールが存在するということです。これは3つの要素によって実現できるようになりました。

常時コミュニケーションできるインフラとしてのインターネット

 定額制のデータインフラの存在は大きいですね。電話代が高かった頃であれば、いちいち電話しなければなりません。

コミュニケーションを促進する場

 例えば、Line、Facebook、Twitterのようなソーシャルネットが人気です。

個人をつなげ情報を共有するための端末

 携帯電話、スマートフォン、ノートPC、ゲーム機など今は多くの端末が身近にあります。2015年登場した新しい端末ではスマートウォッチもありました。

 重要なのは、新しい技術の登場が新しい視聴スタイルを生んだのではなく、今までやりたかったことを、新しい技術ができるようにしたにすぎないということです。つまり、今の観たいシーンだけ観たいという視聴傾向は昔から存在し、仮に番組を制作する側が、昔の一度ロックインしたら視聴者を釘付けにできるという仮説のもとに番組を制作し、視聴率の変化を憂いているのであれば、かなりピントがずれています。

 今回格闘技の裏番組で視聴率を稼げたのは、まさに観たいシーン。『曙太郎×ボブ・サップ』の12年ぶりの再戦が午後8時45分から10時30分で7.3%、『魔裟斗 vs. 山本“KID”徳郁』の11年ぶりの再戦は午後10時から10時52分で9.0%と健闘しました。番組全体で視聴率を取るのではなく、ピンポイトでの視聴率で勝負するという意味では、結果を出したと言えるのではないでしょうか。

 では、紅白の裏番組で最高視聴率を取ったのはどの番組でしょうか。

 『“ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!!”の年越しスペシャル”絶対に笑ってはいけない名探偵24時!』でした。

 豪華なゲストの登場と、想像を超えるようなギャグが飛び交いました。ピンポイント視聴を許さない番組の作りは、企画が尽きない限り、これも1つの成功パターンでしょう。前半午後6時30分から9時が17.6%、後半の9時から年をまたいで0時30分が15.3%と素晴らしい結果でした。

今後のテレビ番組に必要なこと

 今のトレンドを推測し、適切な時間帯でベストなコンテンツを流さなければテレビは観られなくなるでしょう。これからは、より制作段階から綿密なマーケティングが必要になってきます。また、インターネットを活用し、場そのものもプロデュースしたり、端末のバリエーションも考慮しなければなりません。

 キッチンでお料理をしているお母さま向けに冷蔵庫のモニタ、お風呂に座っているロボット型の端末が子どもたちに観たいシーンを教えてくれるかもしれませんし、そままお風呂で遊べるようなコンテンツにしてもいいかもしれない。そういう意味ではゲームとの連携もありでしょう。自動運転の車の車中で楽しめるようなコンテンツがあってもいいかなと、想像は尽きません。

 しかし、あくまでも新しい技術で、今までやりたかった、観たかったものが楽しめるのがベースです。技術の押し売りではなく、夢を実現するという発想で新しい技術が発展する。まずはやりたいことを明確にしていくことが、デジタル時代に重要なポイントではないでしょうか。

 最後に。環境が年々変化する中、視聴率という指標だけで過去と比較し、一喜一憂するのは、そろそろ止めにしませんか?

Peace out,

Eric

エリック松永(Eric Matsunaga)
プライスウォーターハウスクーパース株式会社 エンターテイメント&メディア リードパートナー
バークリー音学院出身のプロミュージシャンという異色の経歴を持つアーティストであり、放送から音楽、映画、ゲーム、広告、スマホまで、幅広くメディア業界の未来をリードする人気メディア戦略コンサルタント。アクセンチュア、野村総合研究所、デロイトトーマツコンサルティンクグメディアセクター APAC統括パートナーを経て、現職。主な著書:『クラウドコンピューティングの幻想』(技術評論社)、『イノべーション手法50 -デフレ時代を勝ち抜く経営術-』日経BPムック。GQでも連載を掲載中。その他、メディア系専門誌、ウェブメディアに執筆多数。多方面での講演も話題になっている。

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