前回までDevice as a ServiceにとってIDが重要であることをサービス提供とセキュリティの2つの面から解説しました。サービスを提供するという点においては、ユーザーの利用体験を向上し、継続的に利用してもらうためにIDを起点とすることが重要です。セキュリティの点では、「ゼロトラストネットワーク」という新しいセキュリティの概念にとってその中心がIDになるということと、クラウドサービスにおいてはIDを起点にユーザーからフィードバックを得て、それをもとにサービスをアップデートしていくことが重要ですと説明しました。
ところが、この“サービスを柔軟に変化させていく”という点が日本人の「サービス感」と交わると、実はとんでもないことになります。今回は、日本人の「サービス感」がもたらす、サービスの柔軟な変化への誤解について説明します。
日本における一般的な「サービス」という言葉の意味は、「おまけ」という要素が強いように感じます。「サービスタイム」や「サービス価格」「サービス精神」なんて言葉がそれを端的に表しています。商品そのものに対して人の気遣いなどを無償で提供するというそんなイメージです。対して、欧米のサービスという言葉は、もっと厳格にやることが定義されており、その「価値の提供を受ける」という意味合いで使われます。
そもそもサービスという言葉(Service)は、仕える・奉仕するという意味の「Serve」の名詞形です。「サーブする」というと、日本で使うとすればレストランなどでしょうか。給仕という意味合いです。この「Serve」という言葉自体も、ラテン語の「Servus」に由来するものです。これは、「奴隷」を意味します。
日本と欧米のサービスに関する概念の根本的な違いは、日本のサービスが人由来の優しさや思いやりなどに基づくもので「提供する側が能動的にやってあげる」というものであるのに対して、欧米のサービスというものは、本来的には「指示されたことをやる」という受動的なものです。このように、日本と欧米ではサービスという言葉の考え方が異なります。
その上で、製品(モノ)を提供するのではなく、人が行う役務をサービス(コト)で提供していこう、「As a Service」をやっていこうとなると、どんなことが起こるでしょうか。いわゆる「SLA」(※下段参照)が全く明確ではないサービスと呼べない代物が、日本ではサービスとして提供されます。
※SLA(Service Level Agreement=サービス品質保証/サービスレベル合意書):SLAとは、サービスを提供する事業者が契約者に対し、どの程度のサービス品質を保証するかを提示したもの。通信サービスやホスティングサービス、クラウドサービスなどでよく用いられる。出典:IT用語辞典 e-Word