ワークスアプリケーションズ(ワークス)が、SaaSの新たなサービスの提供を開始する。チームやプロジェクトといった現場における生産性向上ツール群で構成する「HUE Works Suite」と、企業の情報資産の電子化支援およびデータを有効活用するためのサービス群となる「HUE Works Suite DX Solutions」をそれぞれ製品化、同社の主要顧客層である大手企業だけにとどまらず、中堅中小企業にも提案していく。
代表取締役最高執行責任者(COO)の秦修氏は、「当社ERP(統合基幹業務システム)との連携提案だけでなく、SaaS製品単体でも利用可能なため幅広いユーザーに提案できる。プロジェクト単位やチーム単位でも導入でき、大企業だけでなく中堅中小企業に対しても提案できる製品になる」とし、「SaaSをワークスの新たな事業の柱に育てたい。これまで以上に、パートナーとのエコシステムも強化していく」と語る。
SaaS製品化に向けて、同社が2017年に徳島県に自然言語処理に特化した研究部門として設立した「ワークス徳島人工知能NLP研究所」の技術も積極的に活用することになる。
HUE Works SuiteおよびHUE Works Suite DX Solutionsは、同社から正式に発表される予定だ。まずは合計5つの製品を発表するが、今後さらに品ぞろえを強化していく考えも示している。
HUE Works Suiteは、コラボレーション型表計算のウェブサービス「Enterprise Spreadsheet」と、プロジェクト管理のウェブサービス「Projects」で構成。これらをHUE Works Suiteの第1弾製品と位置付けている。Enterprise Spreadsheetは、単体利用が可能なオンラインシェア型サービスとして提供、表計算ソフトウェアとしての基本的な機能を搭載するとともに、リアルタイムでの共同編集などにも最適化しているのが特徴で、組織や部門単位でのコラボレーションを促進できる。また、ERPシステムとの連動も可能という。2020年10月に提供を開始する予定で、1ID当たり月額300円を予定している。
Enterprise Spreadsheet
執行役員 上海拠点長兼SaaS事業責任者の藤井信介氏は、「予算管理業務などでは、表計算ソフトで収集したデータをERPに再入力したり、データの不整合が発生した際にはやり直しをしたりといった作業が頻繁に行われている。Enterprise Spreadsheetは、ERPとの連動でデータソース機能を活用する。データベースを直接参照し編集して戻すことができるなどデータを一元管理し、現場と経営のガバナンスとを結び付けられる」と話す。現在はワークスのERPとの連携のみだが、今後は他社ERPとの連携も提案していくという。
また、Projectsでは、業務現場の利便性と生産性向上を実現。プロジェクト単位でのコラボレーションを推進する機能を強化しているのが特徴だ。「現場のデジタルコミュニケーションを推進し、クイックにプロジェクトを立ち上げ、情報管理にも最適化した機能を提供できる。外部のプロフェッショナル人材を巻き込んだプロジェクトも管理しやすいような機能を搭載している」(藤井氏)という。2021年初頭のサービス提供を予定する。
一方、HUE Works Suite DX Solutionsは、9月に発表した証憑電子データ管理ツール「EBM」に加えて、自動応答ツール「Chatbot」、文字読み取り/電子テキスト化ツール「AI-OCRエンジン」で構成される。藤井氏は、「企業の情報資産の電子化とデータの有効活用が可能になる。一つひとつを独立したサービスとして提供できる構成で、まず3製品をそろえるが積極的に増やしたい」としている。
先行発表したEBMは、電子帳簿保存法に対応した電子管理クラウドサービスで、スキャンやスマートフォンによる撮影で紙の領収書などをデータ化し、一元管理できる。取引先名や金額、受領日付などからデータを検索でき、必要なときに必要なデータをすぐに抽出できる。電子帳簿保存法への対応で、電子管理する証憑の原本も廃棄可能とする。また、日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)の「スキャナ保存ソフト」として認証を取得。JIIMA認証取得製品専用の電子帳簿保存の申請が可能となり、申請の手間が大幅に削減できる。初期費用は無料で月額3万円から利用できる。
証憑電子データ管理ツール「EBM」
Chatbotは、国内最大規模の言語資源を搭載した高精度自動応答ツールと位置付け、社内外の問い合わせ業務の効率化を実現できる。ユーザー自身が継続的に改善できるように、ダッシュボードメンテナンス管理機能を搭載。さらに顧客ごとの辞書の構築やFAQの作成および運用に関するソリューションも提供する。11月にもサービス提供を開始する。
ChatbotではNLP研究所の技術を活用。同研究所はAI/NLP(Natural Language Processing = 自然言語処理)分野で国内トップクラスのエンジニアが在籍し、日本語による自然言語処理技術では先進的な役割を担っている。日本語形態素解析器の「Sudachi」や、言語リソースの「大規模日本語同義語辞書」などの実績がある。
Chatbot
AI OCR エンジンは、画像処理と自然言語処理により領収書などの文字の読み取りや、電子テキスト化を実現。手書き文字の認識も可能としており、転記作業コストの大幅削減が可能になる。また、自動学習機能によって利用を繰り返すことで認識精度を高められる。
「OCRによる日本語処理は長年の大きな課題だが、今回のAI OCRエンジンは、ビジネスに使用可能な精度にまで到達し、課題解決できたと自負している。領収書では支払元の読み込みにも対応し、大きな差別化になるだろう」と藤井氏。AI OCR エンジンもNLP研究所の技術を活用して、他社製会計システムなどとの連携提案も積極的に行っていく考えだ。2021年初頭の提供開始を予定している。
藤井氏は、SaaS事業の戦略に関して「まず単体事業として展開し、価値を高めた上で、ERPとの連携も進めたい」とする。製品化においてはNLP研究所の成果を積極的に活用していくこと考えも示し、「技術力の選択と集中」「マイクロサービス化による軽量化と安定化」「他サービス・製品との結合やアライアンスの強化」の3点を重点的な取り組みに掲げる。
「徳島や上海などの研究開発拠点に技術レベルの高いエンジニアが在籍し、技術力を迅速に製品につなげられるかがSaaS事業のポイントになる。多くの企業の生産性向上に直接貢献できる製品を開発したい。今後はワークフローやWBS(Work Breakdown Structure)などにも製品の幅を広げたり、退職する社員の管理やID管理、監査対応などといったガバナンスに対応したりするなど、コミュニティー型やナレッジシェア型で提供していきたい」(藤井氏)
また、「サービス自体を軽量化、透明化することで導入と運用の容易性を高め、ERP連携の強みを提案したい。足りない部分は他社のサービスや製品との結合、アライアンスの強化で対応する。さまざまなサービスと組み合わせてシナジーを創出し、サービス価値を最大化し、顧客のバリューにつなげたい」とも語った。
執行役員 製品戦略担当の宮原雅彦氏は、「ERPのHUE ClassicおよびHUEのユーザーには、製品内で利用しているEBMやESSがSaaS化されERP連携版と連携できる。有効なサブシステムや機能からマイクロサービスに切り替えることができる」と提案する。
これまで大企業を主要顧客としてきた同社にとって、今回のSaaS事業は、中堅中小企業への提案を本格化するきっかけとなる。また、SaaSとERPとを組み合わせた新しいソリューションを提供、ERPをコアにしたプロダクトやサービス、セールスまで含めたパートナーとのエコシステムの構築にも乗り出す考えだ。
COOの秦氏は、「この1年で経営体制が一新し、財務基盤も整ったワークスが新たなステージに向けて再加速することになる。それを象徴する製品がSaaSになる」としている。