オブジェクトストレージを効果的に活用するためのポイントA to Z

Brian Burns (クラウディアン)

2021-03-22 07:00

 オブジェクトストレージは、パブリッククラウドやプライベートクラウドのストレージ基盤としてサービスプロバイダーをはじめとする幅広い企業に採用されています。ユーザーがオブジェクトストレージを選択する理由はさまざまですが、重要な要素はコストの低さ、拡張性の高さ、運用の容易さ、地理的な分散、マルチテナンシー、セキュリティなどです。これらの要素を理解するには、異なる業種のユーザーがなぜオブジェクトストレージを選択するのかを分析するのが最も簡単です。

 サービスプロバイダーは、データストレージサービスを複数の顧客に提供し、バックアップ、アーカイブ、ディザスタリカバリーなどの機能を標準で備えるほか、ビッグデータ解析やランサムウェア対策といった次世代のサービスも用意しています。サービスプロバイダーの中には、顧客の構内にホストされているサービスをリモートで管理する場合もあります。サービスプロバイダーがオブジェクトストレージに注目する理由は、ユニット当たりのコストが最も低いこと、数百ペタバイト(PB)までストレージを容易に拡張できること、運用コストが大幅に低いこと、マルチテナント機能が充実していること、そして顧客のデータを安全にホスティングすることが主要な条件であるためセキュリティが非常に重要であることなどが挙げられます。

 オブジェクトストレージは、ユニット当たりの最低コストを保証するだけでなく、収益性の基盤となる運用コストを大幅に削減します。また、数百ペタバイト(PB)まで拡張できることから、他のストレージ基盤に移行する必要がないという安心感もあります。重要なのは、ストレージサービスのプロバイダーは、それぞれ独立した、あるいはカスタマイズされたアクセス権限、サービス品質、セキュリティ水準、パフォーマンスやサービスレベルに応じた価格設定を持つ、個別の「バケット」ストレージを必要とする点です。

 コストの低さや拡張性の高さ、マルチテナント管理などの要素は、幾つかのオブジェクトストレージ基盤で既に提供されており、主要クラウドプロバイダー(ハイパースケーラー)に選ばれる主な要因となっています。

 一方、ストレージサービスを利用する企業は通常、業務要件とそれぞれのユースケースに基づいてオブジェクトストレージを選択します。例えば、研究センターや放送局など、大容量ファイルを大量に取り扱う企業では、オブジェクトストレージを費用対効果だけでなく処理性能の高さでも最も有力な選択肢として捉えています。オブジェクトストレージを使った大容量ファイルの転送は、他のストレージ基盤よりもはるかに高速です。また、大学の研究センターなどでは、学内や学外のさまざまなグループが共同研究を行ったり、パブリッククラウドと同様に共有データサービスへのアクセスを必要としたりすることがあります。

 世界各地に分散している大企業では、世界中のどこからでも、すぐにデータにアクセスすることが求められます。これを実現するためには、大きく2つの選択肢があります。1つはハイパースケーラーを利用する方法です。もう1つは、オブジェクトストレージ基盤が提供する地理的に分散されたプライベートクラウドを活用する方法です。後者の利点はセキュリティが高く、トータルの運用コストがハイパースケーラーに比べて数分の1であることです。

 銀行や保険会社などの金融機関がオブジェクトストレージに注目する理由は、少々異なります。Splunkなどの分析プラットフォームを使って大量のデータを分析している銀行にとって、オブジェクトストレージはシステム構成を最適化することで大幅なコスト削減につながります。コンプライアンス要件を満たすために、10年や15年といった長期にわたってデータを保存する必要がある銀行にとって、オンプレミスのオブジェクトストレージは「Amazon S3 Glacier」のようなアーカイブストレージサービスよりも低コストになります。そして、最も重要な活用ポイントはセキュリティです。オブジェクトストレージは、金融機関のデータをプライベートに保ち、オンプレミスで耐久性・不変性があり、パブリッククラウドよりもコンプライアンス対応に優れています。

 政府機関は、民間から得られるデータが常に増加しているだけでなく、セキュリティやコンプライアンスの観点からデータを国内にとどめておく必要があります。米国を拠点とするパブリッククラウドでは、全てのユーザーデータがグローバルに分散され、他国のプライバシー法の適用を受けることに同意する必要があります。このような理由から、世界でも日本でも、政府機関がオンプレミス型オブジェクトストレージのユーザーとして最も急速に成長していると考えられています。

 オブジェクトストレージはとても導入しやすくなっており、ベンダーによっては10テラバイト(TB)程度の「スモールスタート」が可能で、ライセンスやサポートの費用は数十万円程度になっています。しかし、オブジェクトストレージの本当の経済的メリットは、利用容量が大きくなるにつれて現れてきます。

 例えば、イレイジャーコーディング技術を利用すると1TB当たりのコストを大きく下げられるため、大規模な設備導入の場合で数百万ドルのハードウェアコストを削減することも可能です。また、オブジェクトストレージのTCO(総所得コスト)はパブリッククラウドよりもはるかに低いため、パブリッククラウドの代わりにオンプレミスを選択した場合のROI(投資対効果)は非常に短いものになります。例えば、1PBのデータを保有する企業であれば、パブリッククラウドを利用する場合と比べて、最初の1年半で損益分岐点に達し、全ての資本コストを回収することができます。

 オブジェクトストレージは、データが急速に増加している企業、クラウドベースのワークフローに移行している企業、セキュリティ、パフォーマンス、コストなどの理由でデータをオンプレミスに残す必要がある企業にとっては、最も実用的で経済的かつ運用面でも優れたソリューションです。

 オブジェクトストレージの特徴である、導入費用と運用費用の低さ、数百PB級の拡張性、マルチテナント管理、セキュリティ機能は、サービスプロバイダーだけでなく、多くの機能がオンプレミスでストレージ基盤を構築する際にも求められている要件です。魅力的な導入コストと優れたROIと相まって、オブジェクトストレージは世界と日本のほぼ全ての産業分野で活用されています。

Brian Burns
クラウディアン 代表取締役
日本を含めアジア太平洋地域でセールス、マーケティング、およびパートナー事業提携の取り組み全般をリード。以前日本のゼネラルマネージャーであったHashicorpで日本担当のゼネラルマネージャーを務めた後、Cloudianに入社。前々職のHortonworksでは北アジア地域副社長として日本市場に貢献した。
Cybersource(VISA)やMicrosoftなどの米国テクノロジー企業の戦略的市場参入とアジアでの拡大に焦点を当てて過ごした。カリフォルニア大学バークレー校で工学のMBAとBSを取得し、慶應義塾大学にも在籍。在日15年以上で、現在東京に拠点を置く。

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