本連載は、「CIOの『人起点』マニフェスト」をテーマに、Ridgelinezの最新の知見をお届けしている。第9回のテーマは、「持続的成長の原動力としてのITガバナンスを考える」だ。既に米国をはじめとする海外では強力に推進されているITガバナンスを、日本企業が自社の目指すべきゴールに向けた成長の原動力として取り込んでいくには、どうすればよいのか。その考え方や実践のためのポイントをRidgelinezの支援事例とともに紹介する。
多くの日本企業が直面するITガバナンスの課題
まず、読者の皆さんは「ITガバナンス」という言葉を聞いて、何を思い浮かべるだろうか。一見なんの曖昧さもないように見える言葉だが、ITの世界ではさまざまなシーンで頻繁に用いられる一方、その意味が広範に及ぶ抽象的な概念で、具体的なイメージをつかみにくいところがある。
経済産業省は、2023年4月に公開した「システム管理基準」というドキュメントの最新版において、「ITガバナンスとは、組織体のガバナンスの構成要素で、取締役会等がステークホルダーのニーズに基づき、組織体の価値及び組織体への信頼を向上させるために、組織体におけるITシステムの利活用のあるべき姿を示すIT戦略と方針の策定及びその実現のための活動」と定義している。
要約すれば、ITガバナンスとは企業が自らの価値を高め、成長を持続していく上で必要なITシステムと、その具体的な活用戦略、また、必要となる技術、人材などの総称と言っていいだろう。
Ridgelinezは、このITガバナンスの目標を「パフォーマンスの最適化」「リソースの最適化」「リスクマネジメント」の3つの要素でとらえている。そして、これらの目標に具体的な方向性を与えるのが自社独自の「IT戦略」であり、これにより企業は、ITを経営資源として中長期的なビジネス目標を達成していくことができる。
図1.ITガバナンスの目標
既に米国をはじめとする海外では強力に推進されているITガバナンスだが、わが国の現状は決して楽観できるものではない。企業の最高情報責任者(CIO)やIT部門は、既に何十年も前からITガバナンスを重要なテーマとして認識してきたが、近年における急速なデジタル化の進行や、それに伴うIT部門への期待の高まりによって、ITガバナンスのあり方そのものに大きな変化が生じている。米国企業ではこうした変化に俊敏に対応する一方、多くの日本企業では追随できていないのが現状だ。
この問題について経済産業省は、日本企業は米国企業と比べて持続的な成長を支える「攻め」のIT投資が十分ではないことに加えて、デジタル技術の活用において、競争力・効率性の観点、セキュリティ・安全確保の観点で両面に課題があることを指摘している(関連リンク)。その要因としては、ITガバナンス体制の不備やAI、IoT、ビッグデータといった先端技術を活用するためのリソースが整備されていないことなどが挙げられる。
もちろん、企業側もこうした状況を静観しているわけではない。実際Ridgelinezには、年間で10件前後のITガバナンスに関するコンサルティングの依頼が寄せられており、このことからも国内企業の危機感の高まりを十分に見てとれる。そして、こうしたケースの多くで最大のテーマとなるのが、グループITガバナンスの確立だ。その背景には、グローバルでビジネスを展開する大手企業が、海外拠点も含めたグループ全体のITガバナンスに苦慮している現状がある。