実は、ここで生きているのがメインフレームでの実績だという。
「OSSを業務系、基幹系に適用しようとするとメッセージマニュアルの整備や差分解析、ダンプなどメインフレームの技術、そしてそれとセットにした障害対策が求められます。この分野で、日立は他社には負けません。我々には、日本で一番信頼性が要求される銀行の勘定系システムでの実績があります」(鈴木氏)
今後のポイントは政府調達と大企業の積極採用
OSSの普及を後押しするように、技術者の質も変化している。鈴木氏は、「昔は、とにかくLinuxが好きだといういわゆる “Linuxオタク”が多かった」という。以前は、むしろこういう人たちを集めてLinux部隊を作っていた。しかし最近は、メインフレームの経験者が増えているという。
そのためOSS環境においても「ダンプが取れないと気持ち悪い。トレースがとれないでどうするの」という感じになっているという。差分もそうだ。Linuxディストリビューションでは、バージョンアップで何が変わったのか、その差分が公表されないことが多い。しかしユーザから「何が変わっているのですか」と聞かれて「さぁ?」というわけにはいかない。これはメインフレームの世界はもちろん、UNIXでもあり得ないことである。そこで日立は、そのバージョンの違いで何が変わっているかを全部調べてまとめている。
確かに、OSSにはメインフレーマーの復権という側面があるようだ。そこで、OSSでも従来のメインフレームのような囲い込みが出てくると危惧する人も出てきた。しかしそれに対し鈴木氏は、「競争と協調がOSSの強みだ」と答える。
「OSS陣営の中で争っていてはいけません。敵は商用ソフトで、むしろ外にいるのです。そこで、メッセージマニュアルなどは協調してみんなで作る。そうすれば、全体のコストは下がるわけです。その先で競争すればよいことで、今はみんなで協調することが必要です」(鈴木氏)
最後に、今後の展望について聞いた。「今後、OSSの普及をさらに促進するには何が必要か」という問いかけに鈴木氏は、「ひとつは政府調達です」と話している。情報処理推進機構(IPA)などを通してくる開発補助金というレベルではなく、政府そのものが大きな案件でOSSを採用することが望ましいという。ヨーロッパ、韓国などでOSSが成功しているのは、こうした政府調達という要因が大きい。
そしてもうひとつは、「大企業での採用」だ。ネット系、ウェブ系のベンチャーではなく、一般の、それも大企業が積極的にOSSを採用することが何よりもOSSの普及につながる。一時期、こうした企業もOSSの採用を試みたことがあったが、当時はまだOSSそのものの性能も信頼性も今ひとつだった。しかし今、OSSは格段に進化している。
「 Linuxは、IAサーバ上のUNIX後継OSという位置づけで定着しています。さらにOSSミドルが普及するとシステムコストもかなり下がりますので、今後に期待しています」と鈴木氏。
OSSの世界はこれからさらに広がるという認識である。