企業のIT投資動向、サーバ仮想化とモバイルへの需要高い--ガートナー予測

富永恭子(ロビンソン)

2011-02-02 17:19

 ガートナー ジャパンのリサーチ部門は2月2日、国内企業のIT投資動向に関する最新の調査結果を発表した。これによると、2011年度のIT投資は、維持費は縮小するが、新規投資は増加傾向に移るという。また、ユーザー企業においてはサーバ仮想化とモバイルへの需要が高まり、アプリケーション投資も再開することが明らかになったという。

 同調査は、日本全国の従業員数20人以上のITユーザー企業の中からランダムに約5000社を抽出し、2010年10月18日〜12月13日の期間において、各ユーザー企業の情報システム部門責任者を中心に回答を得たもの。なお、有効回答企業数は857社となっている。

 調査の結果、2010年度のIT投資額は2009年度とほぼ同じであったが、2011年度は全体で1.0%程度の緩やかな増加傾向を見せ、既存システムの維持費は減るものの、新規投資に関しては比較的強い増加傾向があるという。また、「2010年度と2011年度の新規・追加投資の主要分野」の調査においては、サーバ仮想化とモバイル環境の整備に対するニーズが拡大するだけでなく、アプリケーションへの投資再開傾向もみられるとしている。特に従業員数2000人以上の大企業において、これらのニーズの高まりが強く、それ以外に、IFRS(国際会計基準)対応や運用管理ソフトウェアへの投資意欲も高まっているという。

2010年度および2011年度の新規・追加投資の主要分野 2010年度および2011年度の新規・追加投資の主要分野(複数選択可、図の赤い矢印は2008年と2009年調査に比べて選択率が拡大した分野、オレンジの矢印は、話題性や期待の割にニーズが小さいクラウド関連の分野を示す)(出典:ガートナー ITデマンド・リサーチ)

 「サーバ仮想化」は、新規・追加投資の主要分野の調査において、調査対象の企業全体で、2008年調査の11%、 2009年調査の17%、2010年調査の19%と選択率(ニーズ)が高くなってきており、従業員数2000人以上の大企業では、2008年の29%から2010年には43%に拡大した。また、従業員数500人を超える中堅企業以上の企業においてかなり浸透しており、その利用率は、500〜1999人規模の企業で40%超、2000人以上の大企業では70%近くになっているという。しかし、全サーバにおける仮想環境の比率はまだ低いのが実態で、インフラコスト削減ソリューションとして新規や追加のニーズが拡大しているのが現状だとガートナーでは説明している。

 その一方で、サーバ仮想化の普及とともに、物理環境との混在で運用管理が複雑化しており、その複雑性を解決することを理由として「運用管理ソフトウェア」のニーズが大企業で再び高まってきているという。

 「モバイル環境整備」のニーズは、2008年と2009年の調査では全体で5〜6%しかなかったが、2010年調査では約2倍の10%にまで拡大した。特に従業員数2000人以上の大企業では、2008年、2009年の7%から、2010年では18%に跳ね上がっている。こういったニーズは、モバイル端末の採用だけでなく、セキュリティ管理やアプリケーションのニーズ、さらにはデータ通信量の拡大にもつながることになるとガートナーは見ている。

 「アプリケーション」については、2008年のリーマンショック以降、多くのユーザー企業が投資を抑制あるいは延期してきたが、調査対象の企業全体で見てもニーズは拡大しているとガートナーではみている。特に再開傾向が強いのは、従業員数2000人以上の大企業だという。「パッケージアプリケーション」では2009年の19%から2010年では28%に、「アプリケーション開発の外部委託」は同14%から22%にニーズが拡大している。また、「IFRS対応」に関しても、2009年の9%に対して2010年では25%と大きく拡大しており、今後、財務・会計管理アプリケーションの改修や、ERPの導入およびアップグレードに結び付く可能性があると予測している。

 また、「向こう3年間に重点投資すべきアプリケーション」について尋ねた調査では、従業員数2000人以上の大企業において、「財務・会計管理」「購買・調達管理」「営業支援・SFA (セールスフォースオートメーション)」「マーケティング支援」「ビジネスインテリジェンス (BI)」「SCM」において、2008年および2009年調査から2010年調査にかけて、投資意欲が大きく高まっているという。ここからも、2008年度後半から2010年度にかけてアプリケーションの新規・追加・更新・改修への投資を最小限にとどめた、もしくは延期してきた企業が、2011年度以降にアプリケーションへの投資を再開しようとする傾向が見て取れるという。

 一方で、「クラウドサービス」については、関心は極めて高いが、実需となるとまだ大きいとはいえず(図のオレンジの矢印参照)、費用対効果やセキュリティといった多くの懸念事項を払拭しない限り、近い将来に市場に大きな影響をもたらすほどの需要は出てこないとガートナーは分析している。同社は、クラウドサービスが日本の市場でIT支出額に比較的大きく影響し始めるのは2014年以降とみており、インフラ取得やシステム運用の支出に対しては市場を縮小させる方向に働き、インテグレーションビジネスにおいてはクラウド環境の増加によって一時的に拡大する可能性があるという。

 また、マイクロソフトの「Windows 7」に関しては、2010年調査時点で、台数比率(アンケート回答企業のクライアントPC総台数におけるWindows 7搭載PCの占める比率)はわずか1%で、企業ではまだ試用段階にあるとしている。一方で、調査時点から1年後の計画では同比率は11%になるという結果が出ており、さらに65%の企業が2012年12月までにWindows 7への移行を予定していると回答しているという。したがって、企業におけるWindows 7への移行は2011年から徐々に本格化していくとガートナーはみている。

 ガートナー ジャパン リサーチ部門 リサーチ ディレクターの片山博之氏は「2011年度は景気のボトムから脱し、ベンダーもユーザー企業も景気回復に向けた新たな戦略が必要になる時期となる。ユーザー企業は、2011年度をIT投資戦略の転換期と考え、コスト削減のみでなく成長戦略も視野に入れることが必要だ。一方、ベンダーはこういった動向に対応すべく、ユーザー企業のIT戦略とビジネス戦略の両方を把握した提案を行うことがいっそう重要になる」とコメントしている。

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