今回と次回はガートナー CIOリサーチプログラム バイスプレジデント兼リサーチディレクターのDave Aron氏に、同社の定点調査などを踏まえてお話を伺う。ガートナー ジャパンのエグゼクティブ プログラム(EXP)エグゼクティブ パートナーの小西一有氏にも同席してもらった。
「マネジメントイノベーション」の本質
――ガートナーが毎年行っている世界の最高情報責任者(CIO)に対する定点調査などから、CIOが抱える課題における最近の変化をどのように見ておられますか。
Aron 2010年の調査結果を見ると、2009年から引き続いて、世界と日本のCIOがともにビジネス面の優先度として企業コストの削減を上位に挙げていることから、内向きの傾向が続いているといえます。
そうした中で興味深いのは、世界のCIOが2年連続してビジネスプロセスの改善を第1位に挙げていることです。もちろん、この課題は重要ですが、私から見ると、2年連続トップということは、実はCIOが強いリーダーシップを持ってビジネスプロセスの改善に取り組めていないのではないか、という懸念もあります。
また、観点を変えてビジネスプロセス改善が2年連続トップになったことをとらえてみると、CIOがこの課題に注目しすぎているようにも感じます。あえてこう指摘するのは、ITがビジネスに貢献する領域として、CIOにはプロセスの改善だけでなく、顧客や商品に関わるところ、さらには「マネジメントイノベーション」、日本語でいえば「経営革新」にも、もっと目を向けてほしいと思うからです。今後CIOにとって最大のチャレンジになるのは、マネジメントイノベーションだと、私は考えています。
――Aronさんのおっしゃるマネジメントイノベーションとは、どういう意味ですか。
Aron まず、イノベーションの領域として、プロセス、プロダクト、マネジメントの3つがあります。プロセスイノベーションとはまさしくプロセスの効率性を高めていくこと、プロダクトイノベーションとは顧客にとって魅力のあるプロダクトを創出していくことです。この2つについては、これまで多くの企業が取り組んできており、成功例も挙げることができます。
ただ、経営の意思決定の在り方や仕事のやり方を変えていくマネジメントイノベーションについては、私に言わせると、これまで100年間、ほとんど取り組まれてきませんでした。最近になってようやく、その本質を理解して取り組みを始めた企業が出現してくるようになりましたが……。
小西 今の話は勘所なので補足説明しておくと、なぜこれまでマネジメントイノベーションが起こらなかったのか。IT活用の話の前にもっと根本的な問題があります。それはAron流に言うと、これまで100年間、企業組織のあり方が変わってこなかったからです。
何が変わってこなかったのか。端的に言うと、ヒエラルキー(階層)に基づく組織体制です。これまで経営の意思決定は、このヒエラルキーに基づいて行われてきました。
しかし、ビジネスを取り巻く環境が大きく変わりつつある中、果たして企業は従来の組織体制のままで、今後も継続的に成長していけるでしょうか。風通しの良くない社内、決断できないトップ、疲弊する社員、顧客指向とはほど遠い商品やサービスなど、ヒエラルキーが生み出すさまざまな歪みが問題になっている今、そうした経営の在り方を根底から変え、企業が今後も継続的に成長していけるように改革するのが、マネジメントイノベーションの本質です。