ビジネスプロセスの改善はCIOの仕事
――世界の最高情報責任者(CIO)に対する定点調査の中で、昨今の経済情勢の激変に伴う新たな傾向は見られるでしょうか。
日高 ガートナーでは毎年、世界のCIOが抱える次年度の課題を調査していますが、2009年の調査「ガートナーEXP CIOサーベイ」の結果を見ると、まず世界と日本のCIOにおいて役割の違いが顕著になってきています。
その役割を、CIOがオーナーシップを持つべき領域という観点で見ると、世界、特に欧米のCIOはITの活用だけでなく、ビジネスプロセスの改善、さらには情報そのものの活用にまでオーナーシップを発揮しつつあります。IT活用からビジネスプロセスの改善、そして情報活用への流れを“川”に例えると、欧米のCIOのそれは勢いよく“水量”が増しつつある状態です。
こうした傾向の背景には、欧米の企業の経営的な価値観が大きく影響していると思います。その価値観とは、「経営にとってITは武器である」ということと「経済的な合理性を最優先する」ことです。
一方、日本でもここにきて、そうした“川の流れ”の重要性を認識するCIOが増えてはきていますが、全体から見るとまだまだその“水量”は欧米に比べて少ない。端的に言えば、ビジネスプロセスの改善が自分の仕事だと思っている日本のCIOが、果たしてどれだけいるか。まだ少数派ではないでしょうか。
こうお話しすると、「欧米式がすべて良いわけではない」と思う方々もおられるかもしれませんが、この“川の流れ”の話で強調しておきたいのは、良い悪いではなく、企業競争に勝つためには“水量”を増す必要があるということです。
――ということは、日本のCIOは経済情勢の激変の中で、果たすべき役割として世界のCIOに比べて立ち遅れていると。
日高 今お話しした“川の流れ”における“水量”という点では、そう言わざるを得ません。ですが、日本のCIOにとっては非常に苦しい事情もあります。
というのは、昨今の経済不況で企業のIT予算は世界的に落ち込みましたが、中でもとりわけ日本の削減率が大きかったのです。しかも企業によっては、他の部署と同様、有無を言わさず一律2割、3割カットなんてやったところも少なくない。
経営判断ですから従わざるを得ないのですが、その点、日本のCIOは与えられた命題を一生懸命こなしているという様子が、私どもの調査結果からも見て取れます。その意味では、与えられた役割を果たしているといえます。
ただ、ここで警鐘を鳴らしておきたいのは、CEOに「ITは経営の武器」という意識があれば、一律コストカットなどという発想にはならないはずです。むしろ、今のような経済情勢が厳しい中では、経営やビジネスの全体最適化を図るためにITをもっと有効活用する方が合理的だと思います。
最適化はITコストからビジネスコストへ
――日本のCIOは経済不況の中、コストカットに奔走したと。
日高 短期的には奔走せざるを得なかったということでしょう。企業のコスト最適化という意味では、私どもは4つのレベルがあるととらえています。
レベル1は、IT調達・購買の最適化。ベンダーからのIT調達・購買に対して最良の価格と条件を得ることです。レベル2は、既存のITのコスト削減。既存システムに対するコスト削減の機会を見つけてムダを省くことです。