ECサイト大競争時代に勝つシステムづくり--ケンコーコム後藤社長

怒賀新也 (編集部) 2012年10月04日 11時10分

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 各界のエグゼクティブに価値創造のヒントを聞く連載「ZDNet Japan トップインタビュー」。今回は医薬品のEC(電子商取引)サイト大手、ケンコーコムの後藤玄利社長。市場拡大とともに競争が激化するEC市場を勝ち抜くため、システム投資にも注力する同社は、原資を確保するために楽天との資本業務提携に踏み切った。事業拡大に向けた情報システム導入を中心に話を聞く。

 「ECは大競争の時代に入った」と後藤社長は話す。ユーザーからの要求が強くなっており「注文の翌日、場合によっては当日の商品発送が求められる」という。ネットスーパーなどを主婦が使いこなし始めていることなどからも、ECはもはや以前のようなニッチな市場ではなく「国民生活のインフラになりつつある」(同)。

ケンコーコムの後藤玄利社長
ケンコーコムの後藤玄利社長

 市場全体の傾向を見ると、ユーザーの要望に応えるべく、ECサイト側がかなり無理をしている。アマゾンは配送料を無料化。取引額によって取引単体が赤字であることが明らかに分かるケースもある。実際に、アマゾンの利益率を開示資料から計算すると、1%にも満たない。

 一方、市場の伸びは続く。経済産業省の調査で、2011年の消費者向けECの市場規模は前年比8.6%増の8兆5000億円に上る。こうした傾向を踏まえ、後藤社長は「利益率よりも成長が大事」だと言い切る。利益率が低くても、シェアを伸ばせば全体のパイが広がっている分だけ成長できるからだ。

成長への投資のため楽天と資本業務提携

 市場の拡大に沿って成長するために、ケンコーコムが取った選択は、楽天との資本業務提携だった。同社は5月17日、楽天を割当先とする第三者割当増資を実施すると発表した。グループという意味では、51.75%を楽天グループが握ることになったことと引き換えに、15億円に上る資金を調達した。

 使途について、物流拠点の拡充に6億7000万円、システムの整備に5億5000万円、海外事業への投資などに2億8000万円を充当するとしている。

 5億5000万円という情報システムへの投資で、メインになったのがERPの導入だ。取扱商品数が20万に近づき、顧客数も増える中で、業務を効率化、安定化させる必要があった。具体的には、SAPのERPをAmazon Web Services(AWS)が提供する仮想化環境「Elastic Compute Cloud(EC2)」に実装した。ERPをパブリッククラウド上に載せるという例はめずらしい。SAPの発表文によれば、EC2上でのSAP ERPの商用利用は日本で初めてだという。

ビジネス拡張に対応するためAWSでSAPを稼動

 後藤社長はAWSの仕組みを利用したERP導入について「今後のスケーラビリティを考えた」と話す。同社は「楽天と健康分野の共同事業をやろうという話をしている」ため、システムの規模を柔軟に変更できるパブリッククラウドの仕組みが合っていた。「まずは会計周りから導入した」としている。

 「節電や計画停電への対応が要求された」ことが移行のきっかけになったが、クラウドに移行することによるコスト効果も大きかったようだ。

 「AWSに移行して、システムの運用コストは以前の月額900万円から300万円と、3分の1に減った」(後藤氏)。データセンターの利用料圧縮と人件費の抑制が効いたとする。また、ERPの導入期間は2、3カ月ほどで済んだ。もともと「われわれのシステム自体を仮想化環境で動作するように設計していた」ことが功を奏したと後藤氏は振り返った。

 導入に際して、NTTデータソルフィスが提供するテンプレート「専門商社向けモデルシステム」を採用。導入、移行、保守、運用も担当している。

 コスト削減という意味では、2011年5月に本社機能を東京・赤坂から福岡・天神に移したことも効果があった。カスタマーサービスや商品データ管理を担当する人員を計十数パーセント増やした一方、人件費の総額は以前と変わっていないという。

ビッグデータ対応も視野に

 今回のERP導入より前に、ケンコーコムは2009年、商品画像送出用にAWSが提供するストレージサービス「S3(Simple Storage Service)」を初めて採用した。それから、2011年には、PC、モバイル、スマホ向け自社サイトをはじめ、モール上支店連携システム、在庫管理システムなどをAWS上に構築した。AWS上のEC2でシステムを組むことで、突発的なトラフィックの増加にも柔軟に対応できるようになったという。

 後藤氏は、情報系システムにおいて、蓄積するデータ量が増加し続けることに触れ、柔軟に対応できる点がパブリッククラウドの利点だと指摘。現状は「FacebookやTwitterなどの非構造化データの分析がまだしっかりできていない」としており、今後はこうしたデータを分析対象にするなど、いわゆる「ビッグデータの活用も視野に入れている」と話した。

 ケンコーコムは、改正薬事法で医薬品のネット販売が禁止されたことを違憲とし、ウェルネットともに、ネット販売を規制する厚生労働省令の取り消しを求めた行政訴訟を起こしていた。4月には、東京高等裁判所が、ネット販売を認める判決を出した。

 この判決により「一類、二類(現状も条件付で販売中)の薬が売れるようになる」と後藤氏。「成長軌道にありながらも、物流面では仁義なき戦いが続いている」というECのビジネスで、他社を振り切る策を練る。

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