スポーツ用品ブランドのミズノが、顧客戦略の軸となっているウェブサイトの管理基盤を刷新した。広く海外展開しており、競技ごとなどで多数のブランドが乱立する中で、ウェブサイトの統合基盤としてのCMS(コンテンツ管理システム)の再構築に踏み切った。生産拠点と販売拠点を積極的に海外へと展開しているミズノが目指すのは、海外売り上げ比率の向上だという。
実現には、海外販社とも密に連携したマーケティング活動を実施する必要がある。その基盤となるのが、ウェブサイトを統合的に運用し、対顧客向け施策の軸となるデジタルマーケティング基盤だった。
ミズノがウェブサイトを運営する上での最大の課題は、競技種目ごとに数十ものブランドサイトが乱立していたこと。種目が違えば集まる顧客データも異なるため、各サイトはバラバラに作られていた。連携と言えば、店舗やECサイトへの送客を指標にしていたことくらいだったという。
ミズノの総合企画室Web戦略担当 専任職 左海篤郎氏は、これまでサイトごとに異なる担当者、制作会社がいて、納品されるサイトの品質にバラツキが生じていたと振り返る。「個別最適を追求し過ぎた結果、全体的なトーンが失われかけていたのは明らかだった」と話している。
構築にあたり導入したのは「Sitecore Experience Platform」。提供するデンマークのSiteCoreでデジタルマーケティングストラテジストを務めるChris Wiseman氏は「競合他社の多くは、コマースやモバイルといった世界を縦軸で見て、それぞれに機能を追加する傾向がある。そのため、機能別にデータがたまってしまい、顧客を横軸で見られなくなるという問題が起きてしまう」と話す。複数サイトを横断的にとらえ、顧客の動向をとらえた上で、コンテンツ管理だけでなく、マーケティング施策を打つ基盤が作れるとしている。
カスタマーエクスペリエンスの成熟度モデル(出典:SiteCore)
ミズノは、会社をリードする部門が全体をけん引するというよりも、全体的な品質を底上げしたかったとする。CMSを初めて導入するにあたり、「ミズノの置かれている状況に沿っているか」「数年先まで無理なく使えるか」の2つをポイントに選定に入った。
具体的な評価ポイントは、1.グローバル展開しやすい、2.社内に導入結果を見せやすい、3.運用コストを削減できる、4.特にコミュニケーションコストを削減できる、5.ガバナンスを強化できるの5つだった。
また、ミズノの風土としても、初期投資の大きなものを採用しにくく、スモールスタートできることも、選定の決め手になったようだ。
導入後、ミズノのトップページの一階層下に各種目のフォルダを作成し、フォルダごとにアクセス権限を付与した。これにより、コンテンツの格納先が明確化したことで、要不要の判断もしやすくなったという。統合基盤にしたことで、管理するべき要素をすべて手元で把握できる安心感も生まれた。
さらに、ガバナンスも効くようになった。導入後のプロセスでは、広報宣伝部による公開承認を必要にした。文言の抜けや情報漏えいのチェックなどにより、リスク回避体制を整えたという。当初は不満も出たが、導入半年後には、当然のように広報への承認依頼が届くなっているとのこと。
数字面では、ウェブサイト運用の外注費が50%減、製品情報ページへのコンバージョン率は5%増、1人あたりページビューや回遊率といった指標も多くが改善しているという。
現状は、コンテンツ管理としての導入にとどまっているが、今後はデジタルマーケティング領域での活用も検討していく考えだ。
CMSを軸にマーケティングを展開するサイトコア
米SiteCoreのデジタルマーケティングストラテジスト、Chris Wiseman氏
CMSをベースとしたデジタルマーケティングの展開というテーマをどうとらえていくべきか。Wiseman氏に話を聞いた。
Wiseman氏 アバナードと共同で、「コンテクストマーケティング」を実現することによる効果について調査しました。回答者の58%が満足しており、離脱客が減ることが分かりました。38%が顧客から得られる生涯価値が改善したと答えています。投資対効果も3倍になり、19%の収益改善につながるとしています。
一方で、88%が苦労しているとも答えています。カスタマーエクスペリエンスを実現しようとしても、88%は実現できない環境にいるのです。そこは素直に受け止めないといけません。
われわれが提供するような製品が、もっと良くなっていくべきです。78%の人が「最近のマーケティングテクノロジが顧客のエクスペリエンスを改善してくれると信じている」とする結果も出ています。われわれはそれを実現したいと思います。
88%が苦労しているという理由は?
企業には多くの部門があり、各部門のコンセンサスを得るのが難しい。これを実現するのが「理想郷」ですが、長期計画になります。その長期計画を受け入れられる裁量が、その会社や組織間にあるかがチャレンジングなのです。
さまざまなコンテンツが必要ですし、さまざまなテクノロジ基盤が社内に存在するので、それを1つにまとめるのが大きな課題になるのです。われわれが自信を持っているのはそこです。1つのデータベースにコンテンツ、顧客の情報が入っている形で、シームレスに展開できます。また、CMSから始めるなどスモールスタートできる利点もあります。
理想郷を目指す場合、その旗振りはどこがやるべき?
IT、マーケティング、経営者が三角形のように、三者三様で支え合うことです。ITはテクノロジやオペレーションコストの削減、マーケティングはコンテンツやマーケティング戦略そのものを立案する。経営者は将来を見据えた長期的なビジョンを描くわけです。
特にCEOのビジョン、戦略は重要です。「デジタルトランスフォーメーション」という言葉が流行っていますが、そういったことを標榜するようなCEOでないと難しいと思います。
デジタルコマースであったり、オンラインでもっとビジネスを展開しようといった発想を持つ人でないと難しいでしょう。オンラインでの売り上げを拡大しようという発想――たとえ商材が最終消費財、歯ブラシなどであっても、ブランディングに対するロイヤリティを獲得する――。
これは非常に難しいことですが、発想を変えてチャレンジできるCEOが求められます。そのためのデジタル戦略を考えるべき時代になっています。