膨大な選択肢からベストな選択肢を見つけ出す、いわゆる組合せ最適化問題は、あらゆる業種に内在する。そのため、組合せ最適化問題を高速で解決する技術の研究開発は重要な課題であり、いま最もホットな話題の一つである。
例えば最近注目を集めているIoT(Internet of Things)においては、さまざまなデバイスに備え付けられたセンサから大量のデータを収集し、それをリアルタイムで処理する機能が求められる。膨大なデータ処理がある中で、特に組合せ最適化処理に要する時間は長く、これを圧倒的に短くする技術は必須である。
組合せ最適化問題を高速で解決する技術の研究開発は着実に進んでいる。これまでの技術発展の延長線上にある高速アルゴリズムの開発はもちろんのこと、最近では、組合せ最適化問題を解決することに特化したハードウェアが開発されている。本連載では、これら一連のハードウェアに関する最新の情報をレポートする。
D-Waveの中は、非常に精密な構造をしている(D-Wave Systemsのウェブサイトから引用)
組合せ最適化問題を解決することに特化したハードウェア開発に火をつけたのは、量子アニーリングマシンD-Waveであろう。これまでGoogleやNASAが導入し、注目を集めてきた技術である。さらにこの3月、交通流の最適化を目指すため、VolkswagenがD-Waveを利用すると発表し、ひときわ注目を集めている。また2016年末、量子アニーリングの提案者である西森秀稔氏と、西森研究室で大学院生時代に学んだ東北大の大関真之氏による書籍『量子コンピュータが人工知能を加速する』(日経BP)が発売され、気になる技術だと思っている読者の方も多いことだろう。
リクルートコミュニケーションズは5月12日、量子アニーリングの実活用に向けた共同研究を本格化すると発表した。具体的に何を目指すのか。実際に量子アニーリングマシンを使って感じたことは何かなど、実際に研究開発に携わる現場の若手データサイエンティストから生の声を聞くため、インタビューを行った。
ーーつい先日、リクルートコミュニケーションズは、量子アニーリングの実活用に向けた共同研究を本格化すると発表しました。具体的に何を目指しているのでしょうか。
高柳:インターネット広告を主力としたプロモーションなど「マーケティング・コミュニケーション」を念頭に置いています。具体的には、広告やPR、ウェブサイトなどのチャネルを通じ、企業や商品ブランドがユーザーに伝えたいメッセージを届ける活動です。コミュニケーションと言っているのは、ユーザー間や企業とユーザー間での相互コミュニケーションを意識しているからです。
メッセージを送り届けるための広告媒体も、テレビCMだけではなく、インターネットが占める割合が大きくなっています。そうなると、一方向の広告という考え方を超え、双方向のコミュニケーションが重要です。
例えばSNS上でどのようにユーザーとやりとりをして、自社やブランドのファンになっていただくかなどです。また、機械学習の文脈で言うと、自社が関与しているサービスに対する情報推薦(レコメンデーション)への適用を念頭においています。
リクルートコミュニケーションズは、ICTを駆使し、クライアントとユーザーのベストマッチングやリクルートグループ事業会社の競争優位を創出する役割を担っており、このような研究開発に適した環境であるといえます。
左から順に、高柳慎一氏(株式会社リクルートコミュニケーションズ ICTソリューション局 アドテクノロジーサービス開発部 エンジニア)、本橋智光氏(株式会社リクルートライフスタイル ネットビジネス本部 デベロップメントデザインユニット データエンジニアリンググループ データサイエンティスト)、棚橋耕太郎氏(株式会社リクルートコミュニケーションズ ICTソリューション局 アドテクノロジーサービス開発部 エンジニア)