棚橋:インターネット広告配信分野では、ユーザーが求めていることを、限られた時間で精度良く予測できるかが勝負です。この際、ユーザーの行動を最もよく予測できる属性(年齢、性別、居住地など)の組合せの最適化が必要です。
これは機械学習の分野では「特徴量選択」と呼ばれます。量子アニーリングを使ってこれを高速に処理しようというわけです。広告配信の世界は高い技術の追求が直接利益に結びつく分野なので、量子アニーリングのような技術を取り入れることで少しでも性能の良い最適化することを目指しています。
本橋:レコメンデーションの分野では、推薦するアイテム間の相性を考慮すると、解が指数関数的に増えてしまい、計算時間が限りなく長くなる「組み合わせ爆発」が起こってしまいます。こうなると膨大なパターンを計算する必要あり、これまでの方法では取り扱うことが難しかったのです。
しかし、量子アニーリングを使うことによって、一瞬でアイテム同士の相性を含めた最適な推薦アイテムの組合せを見つけることが可能になりそうです。
ーーリクルートが有する膨大なデータを高速に処理する際に、量子アニーリングの技術を活用しようというわけですね。ではお聞きしたいのは、量子アニーリングは発展中の技術です。成熟していて使いやすい技術を使うことに比べ、量子アニーリングをあえて利用することの優位性はどこにあると考えますか。

高柳:現在、量子アニーリングの産業活用に光が見えてきていると思っています。例えば、量子ビット数が2年で2倍程度に増加しており、現在は2048量子ビットです。
他にもD-Waveを活用したソフトを開発するのに必要なSDKの拡充、更に、不足している量子ビットを補って計算する技術(qbsolv など)の発展があります。
そのうえで、“Winner takes all”という観点からも、量子アニーリングに着手する理由があると思います。ウェブサービスの世界ではよくあることなのですが、基本的に先発で先行した独占サービスの牙城を打ち壊すことは非常に難しいです。
競合他社に先駆けてコアとなる技術や活用法についての理解を深め、実活用していくことはとても重要だと考えます。
本橋:ハードウェアとソフトウェアの融合した最先端かつ発展中の技術であるという点も魅力的です。振り返ってみれば、iPhone、Amazon Web Services(AWS)、Netezza、Hadoopといった大きなインパクトを与える製品はハードウェアとソフトウェアがうまく融合した製品・技術が多いです。
このような大きなブレイクスルーを生み出す可能性がある技術を押さえておく必要があると考えています。