本連載では、ビジネスで利用するITサービスの最新動向について、最前線を走る企業への取材を軸に紹介する。複数回で同じテーマを追いかけて、今後注目すべきテクノロジやサービスを取り上げる予定だ。今回は「ローコード/ノーコードプラットフォーム」をテーマにした第6回目で、「Microsoft PowerApps」と「Microsoft Flow」を提供する日本マイクロソフトに話を聞いた。
マイクロソフトのビジネスアプリプラットフォームが熱い
IT人材不足の課題を解決
マイクロソフト エマージングソリューションチーム グローバルブラックベルト 吉田大貴氏
マイクロソフトは2016年11月、業務アプリを手軽に作成できる開発基盤としてPowerAppsとFlowの提供を開始した。ExcelやPowerPointのような画面操作でアプリを開発できるローコード/ノーコードプラットフォームで、同社では「ビジネスアプリケーションプラットフォーム」と呼んでいる。
「PowerApps、Flow、Power BIは、“デジタルフィードバックループ”を支える基盤として登場しました」と、マイクロソフト エマージングソリューションチーム グローバルブラックベルトの吉田大貴氏は語る。
デジタルフィードバックループとは、サービスを起点に人材と商材と顧客が関係性を持つ中、デジタル化された顧客情報をリアルタイムに収集分析し、さまざまなシステムと連動する仕組みのこと。サービスを改善するには確固たるフィードバックループを作ることが重要だという。
マイクロソフトが考えるビジネスの成長に必須のデジタルフィードバックループ
ガートナーの発表によると、2017年の段階でアプリの需要はIT部門の開発能力を越えて伸び、5倍以上のスピードで増加しているという。基本的に開発者が足りないのだが、対応策としてパッケージソフトの導入が考えられる。業界向けソフトがあれば、基幹業務の大半はカバーできる。しかし、それでも自社の実務に沿ったシステムにするには、カスタム開発が必要だ。パッケージがなければシステム自体をスクラッチで開発しなければならない。PowerAppsとFlowは、そうした課題を解決するためのツールとして提供されている。
「PowerAppsとFlowを使えば、システムの開発期間を短縮できます。おおよそ4~8週間で業務アプリを作れます。IT担当者がいなくても、現場担当者が自分でカスタマイズできる点もメリットです。ExcelやPowerPointを使ったことがあれば、少しトレーニングするだけでアプリを開発できます。200種類以上のコネクタを用意し、ワンクリックで外部システムと連携可能です。既に動作検証済みなので、テスト工数を大きく減らし、コストの削減につながります」(吉田氏)
ツールの提供を開始してから2年弱。月間利用者数は110万人で、21万3000社以上がPowerAppsとFlowを活用しているという。その中から、実際の事例をいくつか紹介する。
銀行、小売、インフラなどの大手企業が利用
例えば、カナダの電力会社であるTransAltaは、PowerAppsを使って発電施設の各種データを可視化するフロントエンドシステムを開発。Flowと組み合わせて、アラートをリアルタイムに受けられる仕組みを構築した。アフリカの銀行であるStandard Bankも、ATMの保守サービスにPowerAppsを活用。数百カ所に点在する端末の故障状況などを可視化しているという。国内企業でも、新卒社員の6人がチームを組んで業務アプリの開発に取り組み、2週間で完成させた事例があるとした。
日本マイクロソフトでも、PowerAppsとFlowを使ったアプリが利用されているという。その多くは吉田氏が作成したものだ。
「会議室の予約アプリは社内システムと連携し、日時を指定するとOffice 365のAPI経由で空き状況を確認できます。Outlookで同じことをやろうとすると、ずらっと候補が出てしまって選びにくいのです」(吉田氏)
会議室予約システムを構築する程度なら、1時間もあれば十分だと吉田氏は説明する。
業務アプリをノーコードで作れることに加えて、ソフトウェア開発キット(SDK)を使ってビジネスロジックを細かく設計するといった高度なカスタマイズにも対応する。この辺りは、統合的に開発ツールや開発環境を提供するマイクロソフトらしさが感じられる。