Intelの人工知能(AI)チップが超小型の人工衛星に搭載され、地球を回る軌道に向けて飛び立ったという。宇宙空間でのデータ処理を合理化するというのがその目的だ。
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提供:Intel
Intelがこのニュースの詳細を発表したのは米国時間10月20日のことだ。実験用として打ち上げられたこの人工衛星は、シリアルの箱と同じくらいの大きさであり、9月2日に地球を回る軌道に向けて打ち上げられたロケットから放出されたという。
平均的なバックパックに収まるサイズのこの人工衛星「PhiSat-1」は、同程度の大きさである他の45基の人工衛星とともに、現在では高度約329マイル(約530km)の太陽同期軌道上を、時速1万7000マイル(時速約2万7500km)で周回している。
PhiSat-1が他の人工衛星と異なっているのは、Intelの視覚処理ユニット(VPU)「Intel Movidius Myriad 2」を搭載している点だ。「Intel Myriad」製品群は、データ処理の高速化とデータ移送時の容量削減を目的としている。そのアーキテクチャーは小売業やセキュリティ、産業といった分野で広く用いられているが、今回はそれに宇宙研究が加わったことになる。
このVPUによって、AIを活用したデータ処理能力がもたらされる。PhiSat-1には赤外線ハイパースペクトルカメラが装備されている。このためPhiSat-1では現在、同VPUチップを用いることで、地上の科学者らに画像と情報を送信する際につきものである、帯域幅に対する膨大な負荷を削減するための方法がテストされている。
科学者らが直面する難題の一つに、ぼやけた映像などの役に立たない画像と貴重なコンテンツを分別するというものがある。これらの画像データは撮影/保存された後、宇宙から地球に送り届けられ、ダウンロード/再保存されてから、科学者らによる時間をかけたチェックの後、役に立たない画像が削除されることになる。
欧州宇宙機関(ESA)のコンピューティングリードGianluca Furano氏によると、近代的な人工衛星に搭載されている次世代型のカメラやセンサーは、膨大な量の情報を記録する能力を有している。このため、実際に情報のダウンロードや転送をするという次の処理過程を合理化しなければ、こういった能力の全てを生かしきったとは言えない。
Intel、ESA、宇宙分野の新興企業Ubotica、カメラメーカーのCosineが連携し、衛星の打ち上げと試験を実施した。PhiSat-1の目的は、ぼやけた画像の識別/破棄を人工衛星上で実行することで、帯域幅の要求をおよそ30%削減するというものだ。
チームは、Myriad 2チップが放射線に耐えられることをまず確認した後、有用な画像と無用な画像を識別できるようAIシステム自体を訓練する必要があった。
新型コロナウイルスのパンデミックやロケットの遅れ、気象状況などから、PhiSat-1に関する計画には1年ほど遅れが生じていたという。そうした中、チームはこの1カ月間、地球に送信されてきた画像の監視と検証を実施してきている。
ESAは、チームは「史上初めて軌道上の衛星に搭載された、ハードウェアアクセラレーションを利用する地球観測画像用のAIインファレンスを公開できることを喜んでいる」と述べている。
Intelにとって、こういった取り組みは、レガシーなデータ処理用ハードウェアを利用する既存のネットワークを小型デバイスで強化する、「Satellite-as-a-Service(サテライト・アズ・ア・サービス)」用途への道を開くかもしれない。
チームは現在、同じく「Myriad 2」を搭載する「PhiSat-2」に取り組んでおり、宇宙におけるAIの価値をさらに証明しようとしている。
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。