アステラス製薬は3月27日、データアナリティクスによる経営のデジタルトランスフォーメーション(DX)について記者説明会を開催した。
同社は「変化する医療の最先端に立ち、科学の進歩を患者さんの『価値』に変える」をビジョンに掲げ、研究開発戦略として最先端のバイオロジーと革新的なモダリティー/テクノロジーを組み合わせることで、柔軟かつ効率的に創薬機会を特定する「Focus Areaアプローチ」を取っている。
現在は、同アプローチの考え方に基づいて「遺伝子治療」「がん免疫」「再生と視力の維持・回復」「ミトコンドリア」「標的タンパク質分解誘導」を重点投資領域に定め、革新的な治療法の研究開発に取り組んでいる。
代表取締役副社長 経営戦略担当(CStO)の岡村直樹氏は、同社が経営のDXで目指す姿について「経営判断から個別プロジェクトまで、あらゆるデータが有機的に接続され、『価値』を最大化している状態」と説明する。
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アステラス製薬で全社横断のデータ分析業務を担っているのがアドバンストインフォマティクス&アナリティクス(AIA)部門になる。同部門は、戦略的な意思決定を支援するグループ、リアルワールドデータの活用を推進するグループ、創薬研究を推進・加速するグループ、データのガバナンス/エンジニアリングを駆使して高度な分析能力を拡大・支援するグループで構成される。情報システム部と共に既存ビジネスの革新を目指している。なお、両部門は2023年度に統合予定となっている。
アドバンストインフォマティクス&アナリティクス Senior Directorの伊藤雅憲氏は、製薬業界について「不確実性が高い一方で、多くの投資が必要な業界」だといい、「何にいつ投資すべきか、非常に難しい判断が求められる」と語る。
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Focus Areaアプローチは革新的な医薬品の創製に取り組む性質上、過去のデータからの推測に加えて、不確実な状況に立ち向かうためのシミュレーションに基づく予測が必要になるという。同氏によると、例えば、モンテカルロシミュレーションに基づくモデルを活用し、開発の成功・失敗や売り上げの上振れ・下振れなどの要因を考慮することで、戦略的な意思決定を支援しているとしている。
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さらに、伊藤氏はデータアナリティクスの活用事例として、(1)「経営計画2021」達成のための各目標達成度のモニタリング、(2)製品の安定供給のための需要分析、(3)限られたデータ下での投資判断に資する情報の提供――の3つを紹介した。
(1)では、革新的な組織へと変革するため、部門横断で意欲的な共通目標を設定。目標に関連する取り組みとその進展状況に関するデータは一元管理されているが情報量が増大。経営戦略に資する洞察をタイムリーに得るためにも、増大するデータを効率的に分析・加工する必要があった。
そこで同社は、膨大なデータの分析・加工を自動化し、経営の意志決定を支援するダッシュボードを開発。取り組みと進展状況を視覚化し、重要な情報の優先順位付けやトレンドの抽出を可能にした。これにより、データの入力からその視覚化までに要する時間を、3日から15分に削減した。加えて、削減した時間を経営戦略に資する洞察を見出すための時間に充てることが可能になった。
(2)の需要予測は、在庫の不足・余剰を避けるため非常に重要である一方、正確な予測には、季節性、カレンダー、市場特有のパターンを考慮しカスタマイズする必要があった。AIA部門では、時系列アルゴリズムを8つのモデルから自由に選択可能なサプライチェーン予測プラットフォームを開発。製品ごとに最適なアルゴリズムを選択できるため予測精度が向上したという。
「予測精度の向上による、製品の安定供給やコスト最適化、外部ベンダーへの依存度/コストの削減につながっている」と伊藤氏は話す。
(3)は金融工学で用いられるリアルオプション評価をベースにした事例になる。アセットの評価はスピードが重要だが、人の手での評価には時間と費用がかかり、特にアーリーステージの場合はデータが不足しているケースも多く、試算する人が異なると結果が異なってしまうという課題があった。
これに対し、過去の数万化合物に及ぶ外部のデータセットを元に、欠損データがあっても評価可能なPythonベースの手法を開発。アーリーステージのアセットの価値を短時間で評価し、投資判断に資する情報の増加を可能にした。