「デジタルトランスフォーメーション」(DX)はその名の通り、デジタル技術によって、組織に何らかの変革をもたらすものである。しかし、今まで慣れ親しんだ業務のやり方、価値観、文化などをアップデートするのは容易なことではない。つまり、DXプロジェクトを実践する上では、デジタル技術をどのように組織に適用するかという観点だけでなく、こうした変化をいかに組織にスムーズに浸透させていけるかという観点からも対策を施す必要がある。
こうした課題に対する一つの解として、本連載では、企業がDXプロジェクトから成果を得るための具体的手法や実践例をお伝えしてきた。最終となる今回は、Ridgelinezが体系化した「Organizational Change Management」(OCM:組織的変革管理)について解説する。OCMとは、「プロジェクトに関わる全ての人のソフト(人の心)に焦点を当て、現在の姿から在るべき姿へ導くことで変革を促す体系的な手法」だ。現在、企業変革を真に達成する上で不可欠の考え方であるともいえるだろう。
変革にはハードとソフトの両輪が必要
DXなどのプロジェクトを推進する時、チェンジリーダーに大きな使命感やプレッシャーがかかることは言うまでもない。その一方で、プロジェクトに関連するステークホルダーにも変革実現のために多くの貢献が求められる。
どのようなプロジェクトでも、規模の大きさや期間の長さによって、ステークホルダーの抵抗感や摩擦係数は変動する。そのためステークホルダーが抱く「抵抗感」を解消したり、コントロールしたりすることがプロジェクトを成功に導くカギの一つになる。
短期のDXプロジェクトでは、発足から数カ月以内でリリースするものも少なくない。自社の目的に合致したSaaSなどを「Fit to Standard」で導入するパターンはその典型例だ。一方で、自社の制度や仕組み、ビジネスモデルに合わせながら内製化を図る取り組みは、中長期的なDXプロジェクトになりやすい。
ただ短期・中長期のいずれの場合でも、変革にはハード(仕組み)とソフト(人の心)の両輪が必要だ。そしてハード(仕組み)が生み出す価値の最大化は、ソフト(人の心)のマネジメントが成功してこそ実現する。
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一般的にプロジェクトは、プロジェクト管理の世界標準である「PMBOK(Project Management Body Of Knowledge)」のメソドロジーに則って遂行されることが多いだろう。筆者もProject Management Institute(PMI)の日本支部において理事を拝命しており、多様な案件にも日常的に関わっている。これまでの経験から「プロジェクト関係者同士の協力がなければ、枠組みが整備されてもプロジェクトは前進しない」ということを強調しておきたい。OCMは、まさにこの領域に正面から取り組む方法論なのである。