本連載では、これまでRidgelinezが手がけてきたDXプロジェクト事例と、そこで蓄積したノウハウを基に、企業がDXプロジェクトから成果を得るための具体的な手法や、その実践例について解説している。第1回では基幹システムの更改を迅速に実現した方法論、第2回では全体アーキテクチャー構想、そして第3回ではアジャイル型アプローチについて解説してきた。
今回は、ある大規模製造業におけるアジャイル実践の事例を紹介する。本件は「人員計画業務の高度化」を目的に、人事部門の主導で進められたプロジェクトだ。限られた期間で、始めから本格的なアジャイル開発手法を採用せず、クライアントの状況を見ながら、緩やかにアジャイルへの転換を進めたことで、結果として当初の計画よりも短期間で第1フェーズの目標を達成し、成果を挙げた点がユニークな事例である。
「Excelバケツリレー」から脱却しビジネスに貢献する「人員計画」を目指す
この企業はグローバルに事業を展開しており、全体で10万人以上の従業員、数千の組織を抱えている。人事部門では毎年、人員計画を実施しているが、従来のプロセスは、各組織と人事部門の担当者間で、「Excel」ファイルを“バケツリレー”のようにやりとりしており、情報の収集と集計に膨大な時間を要していた。
加えて、その情報を基にした人員計画は「人数のやり繰り」が主となり、「どのような人材を、どこへ、今後の事業計画を実現するためにどの程度配置すべきか」といったような、人材リソースの現状と事業計画を加味した、ビジネスへ貢献できるような計画を示すことができない状況だった。
人事部門では「人員計画の高度化により、運用負荷軽減や柔軟な人員配置計画・予実管理を実現し、さらなる高度化への土台を構築していく」ことを目的に、「人員計画高度化プロジェクト」を立ち上げる。
このプロジェクトではプロジェクト開始前の準備期間中に、クライアント側で現状(As Is)と目指す姿(To Be)や、3カ年のロードマップを整理いただいた。3カ年で、現状の「人数ベース」の人員計画から、段階的に人件費や個々の人材が持つスキルなどを加味した戦略的な人員計画へと発展させるロードマップを描き、1年目には、人数に加えて、理論値ベースの人件費を加味した人員計画を可能にする「第1フェーズ」の実現を目指した。
本案件を受注したRidgelinezは、クライアント側で選定したクラウド(SaaS)型の事業計画アプリケーションである「Anaplan」を活用し、第1フェーズの実現に向けて、最初に組織間で行われている“Excelバケツリレー”の解消を図った。まずRidgelinezの人事領域の専門家が第1フェーズで目指す姿を深堀りし、業務要件の検討・整理を行い、次にAnaplanの実践知を積んだ開発チームがシステム化を実現し、そして、アジャイル開発手法に通じたプロジェクトマネージャーがプロジェクト全体を管理・支援していく体制である。
結果として、プロジェクト開始から5カ月間で、年度目標である「人数と理論値ベースの人件費」を加味した人員計画に関わるデータの「一元管理化・整流化」および「リアルタイムな可視化」を実現するに至った。次のページでは実際のプロジェクト推進において効果的だった手法について解説していく。
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