企業における生成AIの活用は、実証実験から実装の段階へ移ってきているようだ。そこで、IT業界動向の観点から筆者が気になっているのは、システムインテグレーター(以下、SIer)がそうした生成AI需要を取り込んでビジネス拡大につなげられるかだ。それに関連した興味深い最新調査結果の発表があったので、今回はそれを基に生成AI需要に対するSIerの動きを探ってみたい。
企業の生成AI導入率19%、まだまだ潜在需要あり
興味深い最新調査結果とは、MM総研が先頃発表した「企業における言語系の生成AIや大規模言語モデル(LLM)の利用動向調査」のことだ。1599社を対象に3月中旬、ウェブアンケート形式で調査を行ったもので、本稿ではその中からSIerの動きを探る上で3つの結果を取り上げたい。
1つ目は、生成AIの導入状況だ(図1)。
図1:生成AIの導入状況(出典:MM総研「企業における言語系の生成AIやLLMの利用動向調査」)
調査結果から、今回対象とした企業における言語系の生成AI導入率(「本格的に導入済み」+「テストまたは部分導入済み」)は19%だった。このうち本格導入している企業は6%で、導入企業の中でもお試し段階が多い状況にある。導入率は企業規模が大きくなるにつれて高まる傾向にあるという。導入準備中の企業や導入を検討している企業が24%あり、これから導入が加速するとみられる。
また、導入企業と準備中・検討中の企業に導入パターンを複数回答で尋ねたところ、最も多いのは「ウェブブラウザー経由で生成AIサービスをそのまま利用する」で60%だった。まずはOpenAIの「ChatGPT」やGoogleの「Gemini(旧Bard)」などのサービスを手軽に利用してみようという企業が多いとみられる。次に多いのはAIやクラウドのベンダーが提供するAPIを利用するパターンで、44%だった。「Azure OpenAI Service」や「Amazon Bedrock」などを使って自社にカスタマイズし、本格導入するニーズも半数近いことを示している。
2つ目は、生成AIを導入する上での課題だ(図2)。
図2:生成AIを導入する上での課題(n=710、複数回答、出典:MM総研「企業における言語系の生成AIやLLMの利用動向調査」)
言語系の生成AI導入に当たって「課題はない」との回答は3%に過ぎず、ほぼ全ての企業が課題を感じている。いずれの課題も20~30%強となっており、課題が山積している状況だ。中でも「AIやデジタルの高度な知識・技術を持つ人材が足りない」「セキュリティやプライバシーの確保」が31%で並び、トップとなった。ユーザー企業によるIT人材の確保や内製化の流れがあるものの、生成AIのような最先端の技術を取り入れていくにはまだまだ人材面での課題が大きいようだ。
3つ目は、SIerへの期待だ。表1は、生成AIの導入や利用拡大で最も期待するSIerおよびコンサルティング会社の上位10社を示したものである。
表1:生成AI導入や利用拡大で最も期待するSIerおよびコンサルティングファームの上位10社(n=710、出典:MM総研「企業における言語系の生成AIやLLMの利用動向調査」)
MM総研では「企業側で人材やノウハウが不足していることからも、SIerやコンサルティング会社による支援は不可欠」として、生成AIの導入や利用拡大で最も期待するベンダーを尋ねている。その結果、1位はNTTデータ、僅差で2位は富士通、次いで日本IBM、NEC、アクセンチュアと続いた。「生成AIに関する製品やサービスの提供が早く、情報発信量の多いベンダーが上位に入っている」というのがMM総研の見方だ。
また、「デジタル関連の案件ではコンサルティング会社のアクセンチュアが強みを発揮してきたが、生成AIについてはNTTデータ、富士通、NECなどのSIerが上回った格好だ。実装フェーズに入っていることや、国産LLM開発の強みを生かして支援してもらえる点が評価されたようだ」(MM総研)との見方も示している。