AIが人の代わりに業務を行うようになれば、その業務を担っていた人はどうなるのか。これは、その人もさることながら、その会社の経営としての問題だ。どうすればよいのか。日本オラクルの年次イベントで、その疑問に答えるような興味深い取り組み事例を取材することができたので、その内容を紹介して考察したい。
「Oracle Cloud ERP」をベースに経理業務の自動化へ
その事例とは、日本オラクルが2月13日に都内ホテルで開催した「Oracle CloudWorld Tour Tokyo 2025」のアプリケーション基調講演で紹介された三井住友フィナンシャルグループ(以下、SMBCグループ)による「Oracle Cloud ERPを活用した経理業務の自動化」の取り組みだ。
説明役として登壇したのは、SMBCグループ 取締役 執行役専務 グループCFO(最高財務責任者)兼 グループCSO(最高戦略責任者)の伊藤文彦氏。Oracle アプリケーション開発担当 エグゼクティブ・バイスプレジデントのRondy Ng(ロンディ・エン)氏および日本オラクル 常務執行役員 クラウド・アプリケーションズ・ディベロップメントの善浪広行氏との対談形式で取り組みの内容が紹介された(写真1)。

写真1:左から、OracleのRondy Ng氏、SMBCグループの伊藤文彦氏、日本オラクルの善浪広行氏(「Oracle CloudWorld Tour Tokyo 2025」のアプリケーション基調講演にて撮影)
伊藤氏は取り組みの内容について、「Oracle Cloud ERPによってグループ各社の会計システムを共通化して集約し、経理業務の自動化に取り組んでいる。これにより、グループ全体の企業価値を高めていくことが最大のミッションだ。進捗(しんちょく)としては、さまざまな経費の申請から支払いまでの経理業務のプロセスにおいて現時点で約75%を自動化している。その要因として大きいのは、専門知識に基づくさまざまな判断が求められる経理業務に生成AIを活用できているからだ。この自動化率はまだまだ上げられると考えている」と説明した。
また、この取り組みの効果として、「グループ全体として経理業務を集約していくので、グループ経営の強化も図っていくことができる。例えば、グループ各社の財務データを経営サイドが素早くダッシュボードで確認できるようになるなど、経営管理の高度化にもつなげられると考えている」とも述べた。
さらに、筆者が特に注目したのは、「この取り組みは、従業員のエンゲージメント向上にもつながる。なぜかと言うと、これまで手作業でやってきた仕事がかなり削減されることで、やりたいと思っていた仕事に時間を使えるようになるからだ。そうすると、仕事へのモチベーションも上がっていく」との発言だ。
果たして、AIに仕事を取って代わられた従業員が、すぐにそんな前向きな気持ちになるものか。やりたいと思う仕事が特にない従業員は、むしろ不安が募るのではないか。そんな疑問が筆者の頭に浮かんだ。
従業員のエンゲージメント向上についての伊藤氏の話は上記までだったが、実はSMBCグループの取り組みには興味深い従業員への働きかけがあった。その内容を紹介していきたい。