オールフラッシュストレージの登場が、システムや業務を大きく変えつつある。フラッシュの積層化は進み、数年後には市場規模でHDDを逆転する見込みだ。オールフラッシュの進化をさらに加速させると期待されているのが、本記事の後半で詳しく解説するSCM(storage class memory)やNVMe(NVM Express)、NVMe-oF(NVMe over Fabrics)※といった最新テクノロジーだ。ここで考えなくてはいけないのは、そもそも、なぜ先進的なテクノロジ企業ほど、「ストレージの今後」に細心の注意を払い、そしてCIOなどからの提案のもと、自社のインフラ戦略に積極的にストレージ改革を取り入れているのか、というポイントだ。そして最新テクノロジをベースにしたオールフラッシュストレージは、事業モデルを、業務をどう変えるか。CIOはいつこれらに対応すべきかを考察していく。
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オールフラッシュストレージの登場で業務は大きく変わった
オールフラッシュストレージの登場で、ストレージの概念はがらりと変わった。例えば古いサーバに刺さっている「SATA」や「SAS」仕様のHDDを抜き取り、同じ規格のSSDに換装するだけで、I/Oパフォーマンスは数十倍から数百倍に改善し、アプリケーションのパフォーマンスは大幅に向上する。こうしたメリットは分かりやすいうえにビジネスへの貢献も高く、HDDからフラッシュへの移行は急速に進んでいる状況だ。
IDC Japan実施の「国内外付型エンタープライズストレージ市場調査」でも明白だ。同市場の2018年第3四半期(7月~9月)の実績によると、オールフラッシュアレイ(AFA)の市場規模は129億2,100万円となり、前年同期比28.4%増、ハイブリッドフラッシュアレイ(HFA)は164億5,300万円で同29.3%の増加を見せた。一方、オールHDDアレイは155億8,300万円と21.2%のマイナスを示した。
「オールフラッシュアレイは、ストレージベンダーの売上額でも四半期で100億円を超え、3割近いシェアを獲得した。AFAは成熟期に入りつつあり、プライマリーストレージの更改に際しては、AFAの採用が主流となる段階に達している」とIDCのアナリストは同社のリリースで指摘している。
あらためて考える必要性が増大--オールフラッシュのメリット
オールフラッシュのメリットとして、最も目を引くのは前述のようなI/Oパフォーマンスの向上だ。だが好まれる点はこれだけではなく、HDDのような機械的な稼働部分がないことによる故障率の低さも重要だ。さらに消費電力の低下、ラックスペースの削減でも大きな効果が期待できる。初期導入コストこそHDDよりも高くなるが、ランニングコストやメンテナンスコストを含めたトータルコストはむしろHDDよりも低くなるケースもある。
どのような業務を走らせるかに、制限がほとんどなくなってきたこともポイントだ。オールフラッシュが登場した当初は、VDIやデータベースといった高いI/Oパフォーマンスが求められるワークロードへの適用が中心だった。だが、フラッシュの容量単価が年々減少を続け、優れた重複排除や圧縮機能を備えた製品が登場するなかで、ファイルサーバや業務サーバといった一般的なワークロードでも利用できるようになった。
近年では分析や監査の目的でアーカイブデータに高速アクセスしたり、事業継続のためにバックアップサイトから高速にリカバリーするケースも増えてきている。プライマリーだけでなく、セカンダリーストレージでもオールフラッシュが使われはじめたのだ。
このように、HDDからフラッシュへの移行の流れは不可逆的だといってもいいだろう。
旧来のインタフェース/プロトコルは、逆にボトルネックになる
このように、フラッシュがあらゆるワークロードに適用されるようにると、ボトルネックの存在も指摘されるようになった。ZDNet Japan記事「進む不揮発性メモリの開発--SSDよりも大きな変化に?」では、不揮発性メモリ(NVM: Non-volatile memory)という言葉を使いながら、フラッシュのボトルネックについて次のように解説している。
「フラッシュメモリを用いたSSDは、磁気ディスクを用いたハードディスクよりも高速なストレージだが、I/Oスタックは同じだ。このため、デバイスにデータを書き込む際に生じる問題(遅延、エラー、複数のバッファ間の調整)はそのまま残っている。つまり、SSDは単なる高速なディスクにすぎないと言える」
これは、SATAやSASといったHDDにあわせたインタフェースを通してSSDにアクセスする際の課題を指摘している。SATAの最大転送速度は6Gb/s、SASは12Gb/sにとどまる。この制限があるため、SSDが持つI/Oパフォーマンスを生かし切れない。そこで注目されるようになったのが、より速いPCI Expressを使ってアクセスするNVMe(NVM Express)だ。先の記事では次のように評価している。
「NVMは単に高速なだけではない。NVMには永続性があり、ストレージとしても使用できるメモリである、ストレージクラスメモリ(SCM)に利用できる。(中略) もちろん、SCMの製品がNAND型フラッシュメモリと価格面で競争できるようになるまでには、まだ何年もかかる。しかし、メモリバスにNVDIMMを利用するだけでも、システムを大きく高速化できる」
急速に普及しはじめたNVMeと、熱い視線が注がれるSCM
現在、この記事が触れたNVMは、その高速性ゆえ、NVMe接続SSDとして急速に普及しはじめている状況だ。NVMeの最大転送速度は32Gb/sで、これだけでも単純にSASの2.6倍だ。加えて、4KBの転送に必要なメッセージが2つではなく1つで済むことや、コマンドを処理するためのキューが1つではなく複数であるなどの改良が施されている。
こうしたメリットを享受できるよう、多くの製品でNVMe対応が進められており、サーバ製品の一部はNVMe接続SSDを搭載できる。また、ストレージ製品では、HDDとSSDのハイブリッド構成をとりながら書き込みキャッシュや読み取りキャッシュとしてNVMe接続SSDを利用している。オールフラッシュストレージでも、SATA SSDではなく、NVMe SSDを採用するケースが増えてきた。
さらに新たなアプローチであるSCMに対応するベンダーもでてきた。SCMの定義はまだ多少揺れているが、メインメモリ(DRAM)とストレージ(HDD/SSD)の間に位置し、DRAMとSSDとの間にあるデータ処理のギャップを埋める次世代メモリを指している。
さまざまなベンダーがSCMの開発に取り組んでおり、この辺りの事情は、ZDNet Japan記事(「ムーアの法則」限界説飛び交う中、プロセッサ高速化への道を模索するチップメーカー)などで詳しく伝えている。
このNVMeとSCMへのベンダーの対応状況としては、HPEが積極的に対応を表明し、実際に製品の提供も開始している。ZDNet Japanでは以下の各記事などで伝えている。「HPE、フラッシュ導入を加速させるプログラムと新製品を発表」「HPE、フラッシュストレージアレイとAI予測機能を強化」「HPE、「Nimble Storage」の新モデル発表--価格性能比を3倍に向上」など
CIOはこれら技術をどうとらえるべきか
ここまで解説した新たなストレージやメモリ技術の動向は、自社のストレージ基盤を立案するうえで無視することができないものだ。特にNVMeとSCMとが組み合わさることで、これまでのストレージの常識が大きく変わり、業務にも大きな影響を与える可能性がある。
具体的には、ビッグデータ分析や高トランザクションな業務がより高速化・効率化されるだろう。また、膨大なデータのバックアップ時間は大幅に短縮され、VDIや業務サーバなどの混在ワークロードの高速処理なども変わる可能性がある。
さらに、NVMeをネットワーク経由で接続するための規格であるNVMe over Fabrics(NVMe-oF)もある。これを用いると、ストレージだけでなく、ソフトウェア・デファインド・ストレージ(SDS)やハイパーコンバージド・インフラ(HCI)のあり方も大きく変わる可能性が生じてくる。SDSやHCIの設計ではI/Oパフォーマンスだけでなく、ネットワーク帯域が重要な要素になるためだ。
CIOは、こうしたオールフラッシュのメリットを把握しつつ、常に最新ストレージ技術のトレンドを押さえておく必要がある。そのうえで、製品への実装がどのように進むかに注意を払いつつ、適切なタイミングでビジネスへ展開していく必要が出ているのだ。