意外に高い、レガシー資産の延命期待
「お客様のシステムにWindows NTで動いているものがありました。仮想化環境は、その延命のために導入したのが最初ですね」
こう切り出すのは、レガシー環境の延命を目的に仮想化環境を導入した、あるデータセンター事業者だ。
マイクロソフトがサポートを打ち切ったWindows NT系列はもとより、LinuxのマイナーなディストリビューションやSun OSなどを使用したシステムを、いかに延命させるか。現場ならではの悩みに答える有力な解決策が、仮想化技術というわけだ。
「新たに開発予算と時間を掛けるよりマシだと考えた」
「今あるシステムを止めるわけにはいかなかった」
「基幹業務は5年から10年のスパンで考えなくてはいけない。マイクロソフトの都合に合わせて2〜3年でOSを切り替えるわけにはいきませんからね」
次々に共感の声が広っていく。
同時に明らかになったのは、導入前の段階から仮想化環境が直接的なコスト削減に結びつくと期待せず、慎重に考える姿勢が強いという点だ。
あるメーカー系の情報システム担当者が「経営層から、仮想化するとコストが下がるらしいから導入しろ、という話が下りてきたんです」と打ち明けると、「あるある」とテーブル一同から声があがり、会話が一気に膨らむ。
「実際には、コストって下がらないんだよね」
「イニシャルコストがかなり掛かる。サーバを集約して、新しいストレージを導入して……とやっていくとどんどん見積が高くなり、とてもではないが幹部に提案できなかった」
最後には「仮想化は安くなる、って誰が言い出したんだろう?」との発言まで飛び出し、一同爆笑の場面もあった。
サーバの更新、仮想マシンに導入するソフトウェアやアプリケーションのライセンス、ネットワーク設計の見直しなど、仮想化導入には相応のコストが掛かることを織り込んで、現場は考えているのだ。
仮想化で実現できる「コスト削減」とは何か?
もちろん参加者は、仮想化環境の利点についても冷静に分析している。一同が耳を傾けたのは、コスト削減に関する話題もそうだが、導入してみて分かる仮想化環境の利便性の数々だ。
「技術の進歩に伴って、1サーバで動かせる仮想マシンの数が増えてきた。ようやく仮想化はコストに見合う段階になってきたのではないか」(メーカー)
「イニシャルコストはかかるが、それ以上にサーバ集約による運用コストの削減や、トラブルシューティングの手間軽減が実現できる」(金融サービス)
他にも「物理サーバが減ることでネットワークを含めたハードウェアのトラブルポイントが減り、トラブルそのものも減ったし、原因究明や対処も楽になった」
「社員共用の会議室用PC多数をデスクトップ仮想化して運用コストを削減しようと考えた」など、主に運用面でのメリットを強調する意見が相次いだ。
「もともと直接のコストダウンは期待していなかった。仮想化、クラウドの導入で特にコストが下がることはない。ただ、サーバを集約することで物理的な機材や設置スペースを格段に減らせることが大きかった」(メディア)
「サーバを減らし、集約することでメンテナンスコスト、消費電力も削減できるし、お客様にサービスを安価に提供できるようになる」(データセンター事業者)という発言もあり、スペースの節約やトラブルポイントの減少などのメリットも提示された。
また、顧客の案件ごとにハードウェアを別途用意することなく、各環境を仮想化で再現できるのがいい、という意見も出た。
「ハードをいちいち買ったり借りたりするコストがないのはもちろん、買うために社内稟議を出す手間が省けたのが一番大きいですね。貴重な時間を節約することができ、結果としてお客様に納品するまでのリードタイムを短縮することができます」(データセンター事業者)
「時間」も含めた総合的なコストダウンには、仮想化も十分に役立つと考えられているということなのだろう。