IBM Researchのディレクターであり、物理学者でもあるPaul Horn氏は、IBMで最も難しい数学の問題の1つに直面している。その問題とは、年間50〜60億ドルにのぼる研究予算を、ハードウェア、ソフトウェア、そして近年台頭してきたサービスの各分野にどう分配するか、ということだ。
IBM Researchは60年前に設立され、現在では当たり前の存在となっている多くの技術の開発に関わってきた。このリストのなかには、ハードディスクといった日常的な機器や、各種のプログラミング言語も含まれている。しかし現在、IBMは収益の約半分を、自然科学とはほとんど縁のないコンサルティングサービスから稼ぎ出している。
Horn氏がやるべき仕事は、サービスという捕らえどころのない分野を、エンジニアリングのような分野に近づけることだ。技術や研究の成果をサービスに適用できなければ、IBM Global Servicesは、ローコストの競合他社に価格競争で負けるおそれがある。
同氏はまた、ナノテクノロジーのような分野における基礎研究と、同社の各製品グループのニーズとの間で最適なバランスをとらなくてはならない。これらのグループでは、競合他社に差をつけるためのIBM Researchの発明を当てにしている。
Horn氏はCNET News.comのインタビューに応じ、サービスに関する研究について語った。同氏はまた、自然言語処理から特殊用途向けのハードウェアアプライアンス、オープンソースソフトウェアにいたる新たな技術へのIBMの投資についても話をした。
--Microsoftには(IBMと)同じ規模の研究機関があります。IBMとMicrosoft Researchの研究はどう違いますか。
われわれとMicrosoftとでは、企業文化も大きく違えば、企業として注力している事柄も異なります。IBMは、自社がオープンコミュニティのなかである種の大きな役割を演じていると考えることを好みます。われわれは実際に、自分たちがIBMの知的財産や特許を利用する他者を支援していると思っていますし、またわれわれがそのなかで活動し、繁栄しているオープンなコミュニティに力を貸していると考えています。
いまのMicrosoftは、15年か20年前にIBMがいたのと同じ立場にいると言えます。彼らは、自社の次世代アプリケーションスイートをいかに開発していくか、Wintelによる寡占状態をいかに維持していくか、Windowsの地位をいかに維持していくかに没頭しています。Microsoftのいまの立場を考えれば、彼らがそういった事柄に没頭するのもよく理解できるのですが、ただしわれわれが力を入れていることはまったく異なります。
--IBMの内部には確立されたビジネスがいくつもありますが、それらのビジネスを脅かす破壊的な技術がたくさん台頭してきています。IBMはこうした技術をどう取り込むのですか。
私は毎年12月に(CEOの)Sam Palmisanoや上級役員らに、これから登場する破壊的な技術について説明しています。8時間を費やして行うこのプレゼンテーションと、その後の行動のおかげで、少なくとも近年では、影響度の高い破壊的な技術を見逃さずに済んだと思っています。そして、いまも大きな影響を与える破壊的な技術が登場してきています。わが社の競合相手がこういった破壊的な技術にぶつかるのを見るのは興味深いものです。彼らはこうした技術の出現に気付いていないため、われわれの場合よりもずっと大きな痛手を負うことになります。
例を挙げてみましょう。オープンソースに対して最も激しく抵抗しているのはどの企業だと思いますか。われわれは、知的財産のライセンス供与によって年間10億ドル以上の純利益を得ているにも関わらず、オープンソースを受け入れていますが、これはオープンソースが強烈な破壊的技術となることを知っているからです。われわれは最大手のスケールアップ(サーバ)製造会社ですが、2プロセッサ(サーバ)や「Blue Gene」(並列スーパーコンピュータ)も製造しています。そのため、われわれはこういった破壊的な技術に対して積極的に取り組む準備ができているわけです。簡単なことではありませんが、他の誰かが行うよりは自分たちでやったほうがマシです。