富士通の元代表取締役社長で、社長職の辞任をめぐり同社と争っている野副州旦氏が富士通を提訴した。約3億8000万円の損害賠償の支払いと、全国紙各紙に謝罪広告を掲載するよう求める内容。本件を担当する敬和綜合法律事務所では、株主代表訴訟も検討しているとしている。
野副氏は3月15日、横浜地方裁判所川崎支部に地位保全の仮処分を申し立てたが、その後これを取り下げていた。敬和綜合法律事務所の陣内久美子弁護士はZDNet Japanの電話取材に対し、「前回の訴訟は地位保全を求めるもので、(野副氏を)代表取締役に戻すべきであるという主張だった。今回は地位を失ったということを前提に、それを元に損害を請求する内容だ」と応えている。
野副氏に訴えられたのは、富士通、同社代表取締役会長の間塚道義氏、同取締役の大浦溥氏、同相談役の秋草直之氏、同監査役の山室惠氏。
これまでの経緯
- 3月5日:富士通 相談役の野副氏、社長辞任の取り消しを求める文書を送付
- 3月6日:富士通、社長辞任の取消を求める野副相談役を解任
- 3月6日:富士通、元社長の辞任取消問題で見解を発表--辞任理由の病気療養は一転
- 3月6日:富士通前社長の野副氏、真っ向から反論--社長解職の手続き自体に大問題
- 3月9日:富士通、東証から厳重注意--代表者の異動理由について適切さ欠く
- 3月4日:富士通、取締役人事を発表--秋草氏の取締役退任は「予定通り」
- 4月7日:富士通前社長の野副氏が記者会見:当初は法的措置を検討していなかった
- 4月14日:富士通のやり方は妥当だと皆が言う--元社長の辞任問題で間塚会長が反論
- 4月22日:富士通元社長の辞任問題:野副氏側が公開質問状--「なぜ明確な説明ができないのか」
- 6月21日:富士通、株主総会で野副氏辞任を説明:山本社長「事業と切り離して考える」
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これまでは、野副氏と面識があるとされるファンド関係者が「反社」(反社会的勢力)かどうかが大きな争点となっている。野副氏側は今回もこの点を追求する考えで、2009年9月上旬から秋草氏(当時取締役)、大浦氏、間塚氏、山室氏が、「ファンド関係者が反社会的勢力に関与しているという情報の真実性を十分に確認・調査しないまま、野副氏を富士通の代表取締役社長として不適任だとして、退任させるべく謀議を繰り返し、その手段について協議を重ねた」(敬和綜合法律事務所)と主張している。
また、野副氏側が「密室」と呼ぶ査問の場において、「山室監査役及び大浦取締役などが中心となり、『情報は、警視庁から得た。○○組の人との付き合いもあるやに』などと根拠のない情報を基に」(敬和綜合法律事務所)、野副氏が辞任するよう「強制・脅迫した」(同)としている。
加えて、本件が企業スキャンダルと一線を画す点とも言われる、虚偽の辞任理由による不適正な情報開示も争点にしたい考えだ。「2009年末まで病院に幽閉し、その後もホテルの一室を用意して、富士通への出社を頑なに禁じ、社内外との接触を禁止することにより、野副氏の口封じを行い、(2)の行為とともに、同氏の人格権を侵害した」(敬和綜合法律事務所)と主張している。
野副氏側の主張は、前回の申立の内容と比べて新材料に乏しい。横浜地裁川崎支部が地位保全の仮処分の請求を却下し、野副氏側が即時抗告すると東京高等裁判所が棄却した経緯を踏まえれば、先行きは非常に不透明な状況にあるといえる。
富士通は「訴状を受け取っていないのでコメントできない」(広報IR室)と述べているが、これまでのリアクションを踏まえれば司法の場で粛々と対応すると考えるのが妥当だ。