Knipp氏によると、EMCも過去にクラウドストレージサービス「Atmos Online」を提供していたが、パートナーからの反発もあってサービスを打ち切らざるを得なかったとしている。「このようなパートナーとの対立は、クラウドへの移行において避けられない問題となる」とKnipp氏は指摘している。
VMwareの変革
ほかにもKnipp氏は、クラウドコンピューティングを軸に戦略を変更しつつある企業としてVMwareを挙げた。長年仮想化ソフトウェアという単一の分野で製品を開発、提供してきたVMwareが、このところクラウドサービスプロバイダーとのパートナーシップを進めているほか、ミドルウェア分野でも積極的に買収を進めているのだ。
VMwareがクラウドサービスプロバイダーと協業した例としては、Salesforce.comと共同でクラウドプラットフォーム「VMforce」を提供すると発表したことや、Googleの「App Engine for Business」における協業がある。Knipp氏は、「VMwareは仮想化製品を提供する企業に過ぎなかったが、これらの提携から将来の可能性が広がってきた」と述べる。
現在VMwareは(買収したZimbraを除けば)自らクラウドサービスを提供してはいない。サービスプロバイダーとの協業で技術を提供してはいるものの、サービスそのものはパートナーであるSalesforce.comやGoogleが提供しているのだ。「VMwareは、将来的にサービスを提供しようと思えばできる技術を持っている。今そうしないのは、仮想化市場が今も成長を続けており、当面はこの分野で十分成長が期待できるためだ」とKnipp氏は言う。
ただし、仮想化技術もいつかはコモディティ化し、市場の成長も止まる。そうなった時、VMwareは岐路に立たされる。「仮想化市場の伸びが止まった後もVMwareが成長を続けるには、自身がクラウドサービスのプロバイダーになるか、サービスを提供する企業を買収して製品を統合するかだ。それまでにSalesforce.comやGoogleのようなパートナーを増やし、クラウドサービスを提供するために何が必要かを学べばよい」とKnipp氏。
また、VMwareは2009年8月にウェブアプリケーションの開発および管理ミドルウェアを提供するSpringSourceを買収したほか、2010年5月にはエンタープライズデータ管理ソリューションを提供するGemStone Systemsを買収するなど、ミドルウェア分野にてさまざまな買収を進めている。
ミドルウェア分野での同社の動きについてKnipp氏は、「こうした買収によって入手した技術を、VMwareでSpringSourceのフレームワークに組み込み、『vFabric』というクラウドアプリケーションプラットフォームとして提供している。これはVMware製品に最適化されているため、VMwareのユーザーがシステムを拡張または縮小したい場合にも便利だ」と説明する。
すでにVMwareは仮想化ソフトウェアの市場でMicrosoftと競合しているが、「Microsoftが.NET関連のミドルウェアとAzureでクラウド分野に進出しようとしているように、VMwareはパートナーシップとvFabricでクラウドに進出しようとしている」とKnipp氏。VMwareが買収したミドルウェアの分野にはIBMやOracleといった大手も競合として存在し、「クラウドというキーワードを軸に、今後ベンダー間の競合関係も様変わりするだろう」と述べた。