同じコンテキストを持つ
日本IBMでは年間200件弱の戦略経営立案に関する案件が発生するという。ただし、200件のうち、全く新規で始まるものは全体の30%程度。多くの場合、戦略策定の途中や実行時に新たな課題や知見を得て、再度戦略に回帰していくという。戦略と実行を「ぐるぐると回ってくるのは全体の70%」だと金巻氏は言う。
「(このような環境で)戦略を作る人とトランスフォーメーションを作る人を分けたらどうなるか——大変なことになる。戦略を作った後でトランスフォーメーションを作る人がおり、もう一度戦略を確認している間に、前の戦略が間違いかもしれないと気づく、足りないかもしれないと気づく、新しい発想に気づく。そして再度戦略を依頼する。戦略の人は再び勉強して……と、これではお客様は混乱する一方だ」(金巻氏)
こうした事態を打開するため、日本IBMでは同じコンテキスト(文脈)を持ち、試行錯誤に付き合う体制を整えようとしている。
「本当に信頼できるパートナーが、本当の意味で必要になる。IBMが従来から言っているTrusted Business Partnerにはそういう意味もあるが、これをより深掘りして強化していこうというのが今回の試みだ」(金巻氏)
経営会議の課題に居座る「ビッグ・アジェンダ」
日本IBMは1月1日に恒例の年頭所感を発表したが、そのなかで代表取締役社長の橋本孝之氏は「ビジネス・コンサルティングとソフトウェアを核に、IBM自身の変革経験と製品・サービスをはじめとする総力を結集してお客様起点の価値を創造し、『ビッグ・アジェンダ』、すなわちお客様や社会の大胆かつ抜本的な変革のご提案とその実現へのご支援に邁進してまいります」と述べている。
この「ビッグ・アジェンダ」とは、顧客や社会の変革を実現しようとする試みだ。金巻氏は、小さく堅めの、しかし一気に仕上げるコンサルティングサービスを利用して、本格的な変革を実現するようなサービスを提供したいと自身の役割に引きつけて解説している。
ビッグ・アジェンダには「グローバリゼーション」「エンタープライズ・コスト・オプティマイゼーション」「スマーターコマース」「ビッグデータ」「スマーターシティ」があり、「いつも経営会議の課題として寝そべっている」と金巻氏。これをIBMのグローバルの資産とネットワーク、ソフトウェア、ビジネスパートナーを活用して解決していく。
具体的には、各CXOに対してコンサルタントを配置し、CXOの文化や意図を理解した上で、高い専門能力を提供するマルチオーナーサポートを用意した。CEO(最高経営責任者)には事業戦略、CMO(最高マーケティング責任者)にはマーケティング戦略、COO(最高執行責任者)にはオペレーション戦略、CFO(最高財務責任者)には経理・財務変革、CHRO(最高人事責任者)には組織・人事変革、CIO(最高情報責任者)には技術戦略を提供する。
「(現代の組織は)社長の下に副社長が、その下に専務、常務がいてというヒエラルキーというよりは、CEOがいて、COO、CFO、CIOがいて、それぞれが独立した経営体となって最適化が進んでいく…それぞれが違う意志を抱えているのだから、我々も専門性を分けて、CEOにはこのグループ、CFOにはこういうスキルをもったグループと分けるべきではないか。これが今回、戦略グループが組織を大幅に変更する一番大きな理由になっている」
こうしたサービスをあらゆる顧客に提供するのは難しく、8社に限定して提供する。この試みがうまくいけば、32社に提供することを計画しているという。