先進国のなかでいち早く少子高齢化社会を迎え、最も急速に人口減少が進むとされる日本。国内需要の低下を前に、企業は国外——特に新興国での事業に社運を賭けている。
世界の工場といわれたアジアの新興国で、中間所得層の急激な増加が見込まれているからだ。
「“お客様の課題はグローバリゼーションである”というのは、誤った解釈の仕方だ。グローバリゼーションはお客様の常識であり課題ではない」と訴えるのは、日本IBM 常務執行役員 トランスフォーメーション・ストラテジー&ソリューション担当の金巻龍一氏だ。
日本IBMは1月17日、同社戦略コンサルティング・グループの2012年の方針と戦略に関する説明会を開催した。同社は戦略コンサルティンググループを再編、従来は「事業戦略」「オペレーション変革」などのテーマ別組織だったが、2012年からはクライアントのCXOに紐付くように編成した。CXOの専門分野はもとより、文化や意図を理解しているコンサルタントを配置し、企業が常に抱える課題「ビッグアジェンダ」の解決を支援する。なお、金巻氏は1月1日付けで現職に就任した。
やることを変えること——トランスフォーメーション
日本IBM 常務執行役員 トランスフォーメーション・ストラテジー&ソリューション担当の金巻龍一氏
冒頭のグローバリゼーションの常識と課題を説明する前に、「トランスフォーメーション」というキーワードを先に紹介する。金巻氏によれば、トランスフォーメーションとは「やることを変えること」だ。
「トランスフォーメーションは、リエンジニアリングとよく比較される言葉だ。リエンジニアリングは一般的に言うと『やり方を変える』こと。物の運び方を変えたり、人の管理の仕方を変えたりすることだ」(金巻氏)
金巻氏は、経済のサービス化が進み、国内で製品を生産する企業が少なくなってきたと述べる。つまり、製造業がサービス業に姿を変えるなど、さまざまな形で業態が変わってきている(=やることを変えている)のだ。トランスフォーメーションとは、このような変革を指し示すキーワードだといえる。
1986年、IBMは世界で40万人の社員を抱える大企業であったが、その後、深刻な経営危機に直面する。1993年にはルイス・ガースナー氏が会長兼CEOに就任してリストラを実施、ハードウェア中心のビジネスからサービス主導ビジネスへの転換を成功裏に導いた。ここで重要なのは「リストラに成功したから収益が出たのではない」(金巻氏)ということだ。
IBMの社員数は、1986年の40万人から1996年の24万人にまで削減された。この24万人のうち、1986年から在籍する社員は9万人だったという。つまり、残りの15万人は新たに雇い入れられた人材だったのだ。金巻氏はこの点にこそトランスフォーメーションの真価があるとする。
「新たに十数万人を雇い入れることで、スキルセットの変換に成功したのだ」(金巻氏)
こうしたトランスフォーメーションで、日本企業がやらなければならないことは「考え方を変える」ことだと金巻氏。ここで冒頭の言葉「グローバリゼーションはお客様の常識であり課題ではない」が再度浮かび上がる。
「グローバリゼーションを本当に実行しようとした時、さまざまな困難がある。(頭では)分かっちゃいるけれど、なぜできないのだろうということを、どう解決していくのか——これが課題だ」(金巻氏)