通信のゆくえを追う

オフラインの心地良さかメールチェックの利便性か--機内ネット接続をめぐる優柔

菊地泰敏(ローランド・ベルガー) 2013年11月22日 07時30分

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 「u-Japan」という政策があったのをご存知だろうか。政府のICT成長戦略の1つとして、2010年までに「いつでも、どこでも、何でも、誰でもネットワークに簡単につながる社会」を実現するための政策であった。u-Japan政策は2005年に発表されたもの。これ以前に「e-Japan」戦略と呼ばれる政策があり、u-Japanはe-Japanの発展、展開した政策であった。

 u-Japanの“u”は「いつでも、どこでも」を表す「ubiquitous」(ユビキタス)から来ている。2013年も残り1カ月となった今、改めてこのubiquitousについて考えてみたい。

 確かに、ここ数年間で「いつでも、どこでも」ネットワークにつながる環境が、それまで以上に整ったことは事実である。これは、通信事業者(キャリア)のネットワークインフラの建設・整備の努力の賜物であると同時に、スマートフォンの出現が大いに貢献している。

 スマートフォンが出現するまでも、ノートPCにデータカードを差し込み、ネットワークにアクセスすることはできた。日本国内においては2007年のイー・モバイルのサービス提供開始により、いわゆるモバイルブロードバンド化が進んだことは記憶に新しいのではないだろうか。余談であるが、イー・モバイルの初期のテレビCMにおいて、松下奈緒が「指、来たっすね」と言いながら微笑んでいたのをご記憶の方はいらっしゃるだろうか。

 これにより、オフィスを離れ、どんな場所でも働くことができるという、モバイルワーカーの数も急増したと言えよう。

 しかしながら、本当の意味でユビキタス化が進んだのは、やはりスマートフォンの出現によるところが大きい。

 これにより、文字通り「いつでも、どこでも」という状況が訪れた。仕事ではなく、遊びのシーンにも浸透し、さらに言えば、積極的に遊んでいるわけでもない「なんとなく」の状況下においても、ネットに接続していることが当たり前になり、ネットに接続しているを意識することすらなくなってきている。

 一日の生活を振り返ると、朝起きてから会社や学校に行くまでの間にもさまざまな形でネットワークを利用し、就業中、授業中、昼休みや放課後、アフターファイブも、ネットにつながっていない時間帯を見出すのが難しいくらいである。

 時間ではなく、場所で考えてみても、普段の生活圏にいるときはもちろん、出張だろうがプライベートの旅行だろうが、移動の最中はもちろん、行った先でも飲食店を調べたり、地図やナビとして使ってみたり、すべてのシーンにおいてネットワークを利用している。

 ユビキタス化、ということにおいてはスマートフォンの出現により、少なくともu-Japanで構想されたような世界が現実となったと言えよう。

 それでも、まだ最近までネットワークに接続できない場所(シーン)がいくつかあった。その1つが地下鉄である。

 しかしながら、2013年の3月には少なくとも東京地域において、東京メトロと都営地下鉄の全路線で通信サービスが利用可能になった。駅構内はもちろん、トンネルの中であってもネットに接続することができ、地上にいるのと変わらない環境になった。

 2つ目が離島だ。人口(=利用者)が少ないことから、キャリアとしては設備投資をしても回収の効率が悪く、ネットワーク整備の優先度が低かったことはやむを得ない。小笠原諸島や南西諸島の一部では、一部のキャリアにおいては最近まで圏外という状況が続いていた。

 しかしこれも、現在は、もはやキャリア間の差はなくなったといえるほど、ネットワークの整備が進んだ。

 そして最後の一つが飛行機の機内である。「航空機の計器に支障を与える可能性があるため……」ということで電波を発信する機器については電源を切ることが求められていた。もちろん今でも離着陸の間には電源を切ることが求められている(米国においては、離着陸時も含め電源を切ることを求めないとする規制緩和が行われることが発表されている)。

 しかしながら、水平飛行の高度に達するとインターネットに接続できる環境が整いつつあるのである。

 日本航空(JAL)では国際線が2012年、国内線は2013年から機内でWi-Fiを用いたインターネット接続サービスを提供している。もちろん全日本空輸(ANA)も追随し、国際線で2013年からサービスを開始した。

 日系の航空会社のみならず、外資の航空会社も機内でのネットワーク接続サービスを提供し始めている。Honeywellの調査によれば、米国人の73%、英国人の63%、シンガポール人の61%が機内でのネット接続サービスを望んでいるとのことである。もっとも、Honeywellは機内Wi-Fiサービスの機器ベンダーであるため、数字の信用度について留意する必要があるかもしれない。

 その前提に立った上で、大げさでなく地球上のすべての場所で、24時間365日、どんな状況においてもネット接続できる環境が整いつつあるとの見方ができる。

 問題は、それが利便性の向上、もっと言えば幸せに寄与しているかどうかである。

 地下鉄はともかく、離島は住民以外の多くの人にとってはリゾート地であり、秘境であり、現実世界から離れた環境であろう。そこでネットワークに接続できることが幸せなことであろうか。多くの離島は小さい。だからこそ飲食店を探すとか地図を確認するとか、そういう使われ方が主ではないだろう。

 むしろ、その地で見たり、聞いたり、体験したことをSNS上にアップする、そんな使われ方が多いのではないだろうか。

 もちろんそれを否定するものではない。否定はしないのだが、それは旅行が終わってからでは遅いのだろうか。要するに、そんなに即時性が求められることなのであろうか?

 少しでも早く自分の感動をみんなに共有したいという気持ちは理解できる。だがその同じネットワークを通じて「業務上の連絡」が入ってしまったら、まったくもって興ざめなのではなかろうか。

 もちろん離島にも住んでいる方々がおり、住民の利便性向上を無視することはできない。しかしながら、「住民の」利便性ということであれば、基地局を建設・運営するのではなく、例えば定住者にのみ衛星携帯電話サービスの利用補助金を支給するといったことも考えられるはずである。総務省の「携帯電話等エリア整備事業」の財源を利用すればいい。

 同じように、機内もネットワーク環境が必要な場所なのだろうか。機内の映画や音楽などのエンターテインメントでは飽き足らない場合、「YouTube」や「Hulu」にアクセスできれば、それはそれで便利である。しかしながら、その同じネットワークを通じて「出張先で片付けてきてほしい追加の仕事の連絡」が入るのである。

 実は、機内でのインターネット接続サービスは過去にも提供されていたことがある。「Connexion by Boeing」と呼ばれていた、文字通りBoeingが提供していたサービスである(サービス開始は2003年。Lufthansaが最初の運航会社であった)。

 このサービスは、利用者の少なさ、それによる採算の悪さによって、2006年にはサービス提供終了となっている。

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