当時の市場(ユーザー)と現在とでは状況が違うかもしれない。しかしながら、2012年末のQantasの意思決定は気になるところである。
Qantasは、長距離線の主力機種である「A380」による機内インターネット接続サービスの試験運用を行った後、実サービスとしては提供しないという発表をした。その理由が利用率の低さなのである(試験運用中の平均利用率は5%未満ということである)。
同社の広報担当者によれば「試験運用前には乗客からは高い評価があったものの、実際にはその利用率は想定より低調だった。乗客が睡眠を優先する夜間の便では特に顕著だった」とのことである。
他の多くの航空会社では、概ね好評とのことで続々とサービス提供が開始されている。ただし、あまりに多くの利用者が機内でネット接続サービスを利用すると、いわゆる「パケ詰まり」といわれる遅延、パケット損失が発生し、ユーザーの満足度が下がってしまう。当たり前であるが、機内で利用するために、ユーザーは高額なコストを負担しているのである。
機内での利用が進むのかどうかは現時点ではなんとも言えず、その動向については注目せざるを得ない。
通信は双方向のコミュニケーションである。離島にいようが、機内にいようが、メールが届くということが当たり前になれば、当然のことながらメールを送信した側は返信を期待する。せめて離島や機内は、日常から少し離れた場所として、非ネットワーク環境であり続けてもよかったのではないかとも思う。
総務省のウェブサイトを見てほしい。u-Japanのuは、Ubiquitousのuであるとともに、“User-oriented”のuでもあり、“Universal”のuでもある。User-orientedは「供給側の発想でなく」と表されており、Universalには「人に優しい」という表現が使われている。 技術の進歩と利便性。これすなわち幸福というわけではないことは誰もが感じていることである。
地球上のすべてにネットワークを整備することがキャリアの目指すべき方向なのだろうか。キャリアのみならず、すべてのユーザーが考えるべきテーゼと言っても言い過ぎではなかろう。
- 菊地 泰敏
- ローランド・ベルガー パートナー
- 大阪大学基礎工学部情報工学科卒業、同大学院修士課程修了 東京工業大学MOT(技術経営修士)。国際デジタル通信株式会社、米国系戦略コンサルティング・ファームを経て、ローランド・ベルガーに参画。通信、電機、IT、電力および製薬業界を中心に、事業戦略立案、新規事業開発、商品・サービス開発、研究開発マネジメント、業務プロセス設計、組織構造改革に豊富な経験を持つ。また、多くのM&AやPMIプロジェクトを推進。グロービス経営大学院客員准教授(マーケティング・経営戦略基礎およびオペレーション戦略を担当)
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