アクセンチュアとSAPジャパンは、インメモリデータベース「SAP HANA」をベースにして、統合基幹業務システム(ERP)パッケージ「SAP ERP」の製造業向けテンプレートをクラウドで利用できるサービスを発表。8月から提供している。SAP ERPの既存ユーザー企業の利用を想定している。
この業界向けテンプレートはアクセンチュアが開発し、SAP ERPを導入する際に製造業で必要とされる要件をまとめたテンプレート。これまでの10年間で製造業での業務改革の知見などを盛り込んでいる。このテンプレートをクラウド化したサービスも提供されており、すでに日本企業数社が利用している。
オンプレミス版のテンプレートはすでに、データベースとして「SQL Server」とHANAを使ったものが検証、提供されている。今回発表したサービスは、このテンプレートは、クラウドの経験とHANAの知見を統合したものになる。
アクセンチュア 製造・流通本部 マネジング・ディレクター 渡部英男氏
アクセンチュアの渡部英男氏はこの製造業界向け業務テンプレートをクラウドで展開する意義を「長期契約を前提とした、初期投資を抑えた従量課金的な解決策」「常に最新テクノロジを利用できる技術的な解決策」と表現した。
アクセンチュア テクノロジーコンサルティング本部SAPビジネスインテグレーショングループ統括 マネジング・ディレクター米澤創一氏
アクセンチュアでSAPビジネスインテグレーショングループを統括する米澤創一氏は、グローバルでのSAP HANA を活用した製品やサービスを展開するために組織を改編するなど注力していると説明。「6月に開催されたSAPの年次カンファレンス“SAPPHIRE NOW”では、HANAをスタンダードに利用し、アプリケーションの処理速度を高速化させることでどのように業務を改善していくかを考えている企業が多い」(米澤氏)とし、HANAを活用するメリットが普及しつつあることを解説した。
SAPジャパン ソリューション&イノベーション統括本部リアルタイムプラットフォーム部 部長 大本修嗣氏
アクセンチュアでは、これまでのSAP ERP導入プロジェクトの知見やノウハウを蓄積、再利用する組織を社内に設置して、進行中のプロジェクトを支援するほか、完了したプロジェクトからの知見やリソースを循環させる体制を整え、テンプレートの進化を続けていると説明した。
SAPジャパンとアクセンチュアは共同チームを置いて、HANAやクラウドを活用した製品やサービスを協業フレームワークの中心に位置付けている。
アクセンチュアは、HANAをベースにしたクラウドサービス「SAP HANA Enterprise Cloud」シリーズを優先的に顧客に提案、推進している。2社で編成する協業チームが、実際のプロジェクトに参加し、導入の標準プロセスを整備するといった連携も進めていく。
アクセンチュアでは、クラウド環境やアプリケーションの機能を提供するだけでなく、業務標準化や導入プロジェクトの遂行、運用段階も含めた包括的な受託サービスなど、クラウドで提供するアプリケーションの機能を活用するためのサービスを提供できると説明している。
導入にはテンプレートを変更せずにそのまま導入するパターン、若干の変更や機能を追加するパターン、実装機能をいちから開発するパターンがあるとした。
製造業がリアルタイム性を追求し、クラウド化するメリットとは何か。米澤氏は、クラウド化のメリットとして、バッチ処理をオンライン処理にすることで組織統合や業務プロセスをよりシンプルにできる可能性があることを挙げた。
リアルタイム化の事例として、欧州の自動車部品メーカーがHANAをベースにSAP ERPを運用していることが説明された。この自動車部品メーカーは完成車メーカーから、部品を取りつける4時間前にならないと受注情報が確定しないため、生産計画は1カ月前から予測データを使っていたという。HANAを使うことで20時間ほどかかっていた資材所要量計画(MRP)が1時間でできるようになった。
MRPに20時間以上かかっていた時は、予測したデータをベースに受注に対応していた。現在では、確定した受注に直近のデータからその場でリアルタイムに部品を供給できるようになっている。これにより、サプライチェーン管理を適正化し、効率向上や在庫圧縮、サービス品質の向上を実現しているという。