谷川耕一「エンプラITならこれは知っとけ」

SAPはHANAで「Industrie 4.0」をリードする

谷川耕一

2015-07-15 07:00

ちまたで話題のIndustrie 4.0

 IT系のメディアでも「Industrie 4.0」第三次産業革命がITやファクトリオートメーションを使った製造業の技術革新、その次となるインダストリ4.0は「つながる工場」がキーワードとなっている。Industrie 4.0はネットワーク技術を活用し、工場の中、工場同士、さらにはサプライチェーンがつながることで、物流などを含めたモノを製造する産業全体を効率的で無駄のないものにするものだ。

 一方で、IT業界で今最もホットなキーワードが「IoT(Internet of Things)」だ。モノのインターネットと呼ばれ、こちらはあらゆるモノがネットワークでつながり、そこから生まれるビッグデータを活用することで新たな価値を提供する。

 このIoTを活用する製造業の動きには、米GEが牽引する「Industrial Internet」がある。こちらは、GEのようなメーカーが作るモノ、例えば航空機エンジンなどに各種センサを取り付け、利用時に得られるビッグデータを分析して予防保守や効率的な機器の利用法提案などを行う。これは製造業がモノを作って売り対価を得るビジネスモデルから、モノを顧客が使って得られる価値(あるいは経験)をメーカーがサービスとして提供するものだ。

 ちなみにIoTの活用は、何も製造業に限った話ではない。身近で活用が始まっているのが、さまざまな業種における新たなマーケティングの世界だ。スマートフォンなどから得られる顧客の行動履歴情報を活用し、最適な商品やサービスをタイムリーに提案する。これはすでに先進的なECサイトなどの小売り流通業や、金融サービスなどで始まっている。

SAP HANAはSP10でIoTとビッグデータ用のプラットフォームへ

 Industrie 4.0は、ドイツの「製造業の強さを再び」との発想のもとに、国を挙げたプロジェクトとして進められている。この変革をIT部分から支えているのがSAPだ。そもそもIndustrie 4.0をリードしている「ドイツ技術科学アカデミー(Achatech)」の会長は、元SAPの最高経営責任者(CEO)だったHenning Kagermann教授なので、これは当然と言えば当然だ。

 SiemensやBosch、Continentalなど、ドイツ、いやヨーロッパを代表するメーカーがIndustrie 4.0の活動に参加している。そこでは工場内で使われるデバイスや通信プロトコルの標準化、つながった際のセキュリティリスクへの対応など、つながる工場のための活動が展開されている。単に企業が集まってなんらかの提言を出すだけではなく、リアリティのある活動を目指しておりスマートファクトリのあり方などを具体的に示すに至っている。

 ところで、これまでの製造業におけるIT化は、工場用のITシステムやファクトリオートメーションの導入といった「パッケージ化できるところ」で進んできた。まさにここはSAPが製造業向け各種パッケージアプリケーションとして提供してきた領域だ。製品ライフサイクル管理(PLM)関連アプリケーションも多数提供しており、それらが会計などのERPと一体化して利用できることがSAPの強味でもある。

 IT化による最適化や効率向上が上位レイヤで進んでいた一方で、工場の生産ラインや人の動きの部分はどちらかと言えば工場やラインごとに個別最適化されるに止まってきた。1つのラインの効率化といった視点はあっても、なかなか工場全体、その企業全体での最適化につなげる発想はなかったのだ。Industrie 4.0はまさにそれらを狙っているソリューションと言える。

 工場ラインの最適化では、SAPは製造実行システム(Manufacturing Execution System:MES)関連のソリューションもある。MESよりもさらに下層の産業用ロボットや、工場内の各種センサから得られるデータを活用するところは、さすがになかなか参入できなかった領域だろう。その状況を変えたのが、インメモリデータベースのSAP HANAの登場だ。

 HANAが出てきたことで、センサ情報などを収集しそれをリアルタイムに分析、活用するソリューションをSAPは展開できるようになったのだ。HANAは2010年に登場し、当初は分析などで威力を発揮する高速な検索が特長だった。2012年11月に提供したSP5ではOLTP(オンライントランザクション処理)にも対応、汎用的なデータベースとして利用できるようになり、SAP ERPにも対応した。

 その後のHANA進化の方向性は、プラットフォーム化だ。インメモリ内にさまざまな処理を取り込めるように拡張し、他のデータベースやHadoopなどとの連携機能も強化している。2015年7月から提供を開始するSP10は、IoTやビッグデータとの接続性と信頼性を強化したバージョンと位置づけられた。


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