富士通研究所と富士通研究開発中心有限公司(FRDC)は3月22日、大都市圏内に点在する複数のデータセンター間を大容量かつ低コストで接続するための、1波長あたり毎秒400ギガビット(Gbps)光送受信器に向けたデジタル信号処理の基本方式を開発したと発表した。
富士通研究所では今後、シリコンフォトニクス技術と組み合わせた検証を進め、400Gbps光送受信器として2019年の実用化を目指す。
5GモバイルネットワークとIoTの進展により、利用者がより多くの機器やデータにアクセスしながら、今よりさらにリアルタイム性の高いサービスを受けられる時代が数年以内に訪れるという。そのための基盤として、大都市圏に複数のデータセンターを配置し、連携させる分散コンピューティング基盤の開発が進められている。
分散コンピューティング基盤を実現する都市圏データセンター間ネットワーク(富士通研究所提供)
これら複数のデータセンターを結ぶ光ファイバーネットワークには、現在主流である1波長あたり100Gbpsのデータ送受信にとどまらず、200Gbps、さらには400Gbpsと大容量化が求められており、その実現に向けた研究開発が進められている。
この1波長あたり400Gbpsの光通信速度については、これまで用途ごとに最適化、選別された高価な部品を使うことで実現してきた。
光送受信器の構成部品については、より安価な部品の利用や、別途開発が進められているCMOS技術やシリコンフォトニクス技術を用いることによる低コスト化が期待される。だが、用途ごとに最適化、選別した高価な部品と比較すると性能が低くなり、性能にばらつきも発生するため、そのままでは、データセンター間の通信距離として求められる100キロメートル程度の伝送距離を実現できなかった。
富士通研究所とFRDCは今回、こうした課題に対し、送信側から独自の基準信号を送信し、受信側でこの信号を用いてひずみを効果的に補正する新しい通信方式を開発し、160キロメートルの無中継伝送実験に成功。同技術により、光送受信器における構成部品の特性のばらつきや伝送路によるひずみの影響を高精度に補正することが可能になり、安価な光送受信部品を用いて1波長あたり400Gbpsの送受信を実現した。
同技術は、低コスト化が期待されるシリコンフォトニクス技術を用いた光送受信部品の集積化にも適用可能であり、5GモバイルネットワークやIoTサービスを支える次世代分散コンピューティング基盤の構築に貢献するという。
開発した方式の特徴は以下の通り。
- TechRepublic Japan関連記事:SDN座談会
- 運用管理のあり方を変えるSDNは適材適所で考えるべき
- ソフトのスピード感でネットワークを制御する利点を生かす
- インフラ自動化を支えるSDN--気になるコンテナとの関係
- ネットワークからアプリケーションを理解することの重要性
独自の基準信号を用いた新しい通信方式
従来は、送信器の出力信号を観測しながら信号ひずみを補正することによって、送信器として可能な限り品質の良い信号を送信することが一般的だった。しかし400Gbpsにおいては、求められる処理精度が高くなるため、送信器側で補正することが難しくなり、部品、回路コストが増大する。そこで、独自の基準信号を送信することにより、受信器側で送信器の信号ひずみを補正可能とする新しいデジタル信号処理方式を開発した。
受信器における新しい補正技術
従来の光受信器では、伝送路のひずみを補正してから信号検出のための位相再生処理を行う必要があったが、送信器のひずみの影響が大きい場合は補正が困難だった。今回、独自の基準信号を用いることで伝送路のひずみを補正せずに位相再生を可能とする技術を開発。同技術により受信器は、まず位相再生と送信器のひずみを補正し、その後、伝送路のひずみを補正することで、大きくひずんだ信号からでも変調したデータの再生を可能にする。
光送受信器の構成(富士通研究所提供)
送信器ひずみ補正の効果(富士通研究所提供)
この技術を用いることで、都市圏内に配置したデータセンター間の広帯域ネットワーク構築に十分な距離を想定した160キロメートルの光ファイバで、400Gbps信号の伝送実験に成功した。
課題であった低コスト部品などを利用した場合の特性ばらつきの補償に対しても適用できる。これにより、次世代の分散コンピューティング基盤を構成する1波長あたり400Gbpsの光送受信器の低コスト化が実現できるとしている。
開発技術を適用した160キロメートル無中継伝送実験システムの構成(富士通研究所提供)