Amazon Web Services(AWS)は11月27日から5日間の予定で、米ラスベガスにおいて「AWS re:Invent 2016」を開催している。その中で、大企業などが既に構築しているVMwareベースのオンプレミスシステムを、AWSのベアメタルサーバ上の仮想プライベートクラウド(VPC)環境に移行させる「VMware Cloud on AWS」について、詳細を伝えるセッションがあった。
AWSは10月13日にVMWare Cloud on AWSを発表した。専用に構築したAWSのシングルテナント環境で、仮想サーバ「VMware vSphere」、仮想ストレージ「VMware Virtual SAN」、仮想ネットワーク「VMware NSX」を利用できるようにするものだ。
既存のオンプレミスシステムをクラウドに移行させるニーズをめぐる競争では、IBMがSoftLayerブランドを終了させ、仮想サーバ事業とベアメタルサーバ事業を「Bluemix」に統合。Microsoftは、パブリッククラウドのAzureとオンプレミスのAzure Stackの組み合わせで実現するハイブリッドクラウドで差別化を試みている。
利用シナリオのイメージ
VMware Cloud on AWSの利用シナリオとして3つを想定している。1つは、オンプレミスの環境をクラウドに引き継ぐもの。日本企業が海外に拠点を拡大したいといったケースが考えられる。
もう1つは災害復旧(DR)。DRの仕組みを実装するためには、データとキャパシティを別の地域に展開してもいいようにしておく必要があるという。災害などが発生したらクラウド(AWS)側にフェールオーバーし、復旧したら元に戻すというオペレーションだ。
3つめは、ワークロードの柔軟性を確保するために利用する方法という。アプリケーション稼働のパフォーマンスによって、オンプレミスとクラウドのどちらにでもワークロードを展開できるようにすることで、システム全体の安定性を高め、SLAを担保したりといったことにもつながる。
VMware Cloud on AWSの魅力とは
講演したAWSのソリューションアーキテクト、Paul Bockelman氏は「オンプレミスシステムとAWSを1枚のガラス上で管理できる」と表現する。プロビジョニング、拡張、キャパシティ管理をグローバルに展開でき、サインアップして環境を構築し、自分のデータセンターにアクセスするまで数分という点でも、AWSらしい利点が得られる。
AWSのハードウェア上に、フルスタックのVMware環境を稼働させ、vCenter Server、Platform Services Controller(PSC)、NSX Managerにも直接アクセスできる。
Bockelman氏は「ここでさらに、AWSの独自サービスであるS3(Simple Storage Service)やデータベース環境のRDSなども加えて使えるようになるのが、VMware Cloud on AWSの本当の魅力だ」と話す。場合によっては、ストレージをS3に、データベースをAuroraにといった形で移行することも可能になってくる。
オンプレミス環境から、新設したVPCにVMwareのvMotionを使って移行する
また、導入のしやすさも売りにしている。VMwareの既存ユーザーは直接VMwareと契約することにより、構築するVPCの所有、運用、利用料金の支払いをVMwareが実施する仕組みになっている。契約後、新たなAWSのアカウントが、各顧客に生成される。既にVMwareと契約しているユーザーは、VMwareとの関係はそのままに、AWSに移行できる。サポートの電話も従来通りVMwareにかければ対応してもらえるという。
一方、AWSの顧客が新たにVPCを構築した場合、VPCの所有者は顧客自身となり、VPCの範囲内でVMware Cloud環境にフルアクセスできる。
長くAWSでエバンジェリストを務め、現在はソラコム社長を務める玉川憲氏に今回の取り組みについて聞いたところ「顧客が楽になる施策。これを含め、AWSのエンタープライズシステムの取り組みは始まったばかり。AWSの動きによりソラコムとしてのチャンスも広がる」と展望した。
VMware Cloud on AWSのセッションの様子