「Caliope」はスペインでもっとも高性能なスーパーコンピュータである、Barcelona Supercomputing Centerの「MareNostrum」上で実行されている。
提供:Caliope
世界保健機関(WHO)によれば、世界の都市の約80%で、大気汚染が安全基準を超えており、世界人口の92%がこれらの大気汚染が進んだ地域に住んでいる。大気汚染の最大の原因の1つは、自動車だ。
ギリシャ神話の弁舌と叙事詩を司る女神にあやかって名付けられた、スペインの大気質予測システム「Caliope」は、オゾン、二酸化窒素、二酸化硫黄、浮遊粒子状物質などの主な大気汚染物質の水準を予測できる。同システムは、欧州の大気質の予報を1平方キロメートル、1時間単位で提供している。
この水準の詳細な予報を実現するために、Caliopeではいくつかのシステムを組み合わせている。これには汚染物質排出モデル「Hermes」、気象モデル「WRF-ARW」、「BSC-Dream8b」モデル、 化学輸送モデル「CMAQ」が含まれており、これらはすべてスペインでもっとも高性能なスーパーコンピュータである、Barcelona Supercomputing Center(BSC)の「MareNostrum」上で実行されている。使用されているモデリングツールは、同センターの地球科学部門で開発されたものだ。
Caliopeで48時間後までの予測を計算するには、300基のCPUを使用して6時間かかる。
研究者らは、このコンピューティング能力を使用して、汚染が急増する場合には関係機関に警告を送っている。Caliopeの予想は、大気質の改善に関する意思決定に使われているだけでなく、実施される大気汚染対策(健康リスクが高いときに交通量を規制するなど)が都市に与える影響を評価する、シミュレーションの開発にも役立っている。
ただし、BSCの大気組成グループを率いるCarlos Perez Garcia-Pando教授によれば、「大気の振る舞いはカオス的であり、予測は完璧ではない」ため、排除できない不確定要素が存在するという。
このため、関係機関に対して「モデルの能力と有効性」について説明し、政府の住民に対する情報提供や、大気汚染対策の立案に正しく役立てられるようにすることが、同氏の重要な仕事の1つになっている。どのような大気汚染対策がもっとも効果的かは、難しい問題だ。
2016年11月にバルセロナで開催された「Smart City Expo World Congress」では、大ロンドン庁の担当者が、ロンドンに流入する自動車数を制限するために通行料を課したが、実際には効果がなかったと打ち明けている。