第3回:要求の取りまとめに四苦八苦--要件評価の着眼点を身に付ける

山下博之 (IPA/SECシステムグループリーダー)

2017-07-04 07:00

 「住まいを購入するまでのプロセスは、システム開発における要件定義とよく似ている」をコンセプトに、要件定義のプロセスを解説する本連載。今回は「大枠」を決めた後に行う要件項目の具体的なリストアップのプロセスを解説していく。限られたリソースでどのように要件を絞り込んでいくのか……。まずは千石君の「家づくりプロセス」から見ていこう。

家づくり編:部屋の間取り決めから垣間見える、夫婦の本音!?

 前回、「建築条件付き分譲地」の購入を決めた千石夫妻。さっそく物件の比較検討に入りました。住宅ローンを無理なく返済できる範囲の物件で、最大限の条件を満たしたい……。そんな千石(夫)妻の執念が実り、条件にぴったりの物件が見つかりました。早速、紹介された建築担当の「本郷氏」を訪ね、どんな設計にするのか打ち合わせをしました。

本郷氏:では、始めましょうか。まず、ご購入される土地は、建ぺい率が60%、容積率が150%、土地全体の面積が100平方mです。確か、3階建てをご希望でしたよね。

千石君:はい。予算の都合上、広い土地は購入できないと想定していたので、部屋数を考えると3階建てがベストかなと思っています。

本郷氏:次に、土地と建物の総予算と工期を考慮しますと、木造の家屋になりますが、よろしいでしょうか。

千石夫人:はい。セレブっぽい雰囲気に仕上がるならこだわりません。

千石君:あと自動車1台分の駐車スペースと、季節の花が楽しめる程度の庭も確保したいです。

本郷氏:承知しました。それでは家づくりの大枠要件は、以下のポイントですね。この部分で食い違いが生じると大変な“手戻り”になりますからね。しっかり確認してください。

  • 建築面積:60平方m以下
  • 床面積:150平方m以下
  • 家屋:木造3階建て
  • 駐車スペース:1台分
  • 庭:季節の花が栽培できる程度
  • 完成:着工から6カ月後

千石君:これだと庭の広さが曖昧ですよね。例えば、10平方mとかに決めた方がいいのではないのですか?

本郷氏:外回りは敷地内での建物配置に大きく依存します。現時点では大体の目安を決めて、具体的には敷地と家屋のレイアウト時に確定しましょう。

千石君:分かりました。

本郷氏:それでは次回の打ち合わせまでに要望をまとめておいてください。その合意がないままに着工すると、後々のトラブルになりかねません。では、また来週。

 さて、大枠の要件が固まった千石夫妻は、それぞれの両親の意見も取り入れながら要望をまとめました。最初は2人の要望をリストアップして持ち寄ります。

千石君の要望 寝室(2人で共同) 12.0畳
書斎 4.5畳
風呂 2.0畳
トイレ+洗面(1階) 2.0畳
千石夫人の要望 LDK 40.0畳
寝室1 8.0畳
クローゼット 3.0畳
趣味の部屋 4.5畳
風呂 6.0畳
トイレ+洗面(1階+2階) 4.0畳
寝室2 4.0畳
そのほかに必要な部屋 子ども部屋1 6.0畳
子ども部屋2 6.0畳
両親用個室 8.0畳
来客用個室 8.0畳
合計(千石夫人の要望を優先させた場合) 97.5畳(161平方m)

千石君:なんで寝室が2つ必要なの? なんで広さが2倍も違うの?

千石夫人:ブレストだから気にしないで。

千石君:LDKが40.0畳って何?

千石夫人:あなたこそリビングを忘れているじゃない。寝室と書斎、風呂、トイレだけって、どこの個人事務所よ。

千石君:君こそ個室が必要なような趣味なんてあったっけ?

千石夫人:失礼ね。これまでは部屋が狭かったから遠慮してきたのよ。それよりも来客用個室って必要かしら。両親用個室だって、今は必要ないでしょう。

千石君:確かにそうだね。

千石夫人:その分、お互いの寝室を広くしましょうよ。

千石君:お互いの寝室?

 こんな調子で話し合いをしましたが、当然ながらまとまりません。仕方がないので夫妻は本郷さんに相談してみることにしました。

本郷氏:そうですか。皆さん、最初は好き勝手に要望を出しますので、すぐにはまとまらないことが多いです。そんなとき、私どもでは「必要性や効果をよく検討し、それぞれの要望に優先順位を付ける」ことをお勧めしています。

千石君:それはいいことをお聞きしました。

本郷氏:千石様の場合、お互いの要望には乖離がありますが、それぞれを「何畳」と数値で具体化していますよね。これは、効率的に検討、調整する上で大変重要なことです。ただし、お二人とも重要なことを見逃されています。住宅には、玄関や廊下、階段のスペースが必要です。千石邸のケースでは、これらを10平方m程度と考慮してください。

千石君:あ、すっかり忘れていました。

本郷氏:また、ご両親のお部屋や客間も入れていらっしゃいますが、新築後すぐにご両親と同居されるおつもりですか?

千石夫人:できることならしたくないです。

本郷氏:それは別次元の話です。「必要かどうか」を考える時には、「時間の要素」を加味してみてください。

千石君:どういうことでしょう。

本郷氏:つまり、「近いうちに必要」なのか、「本当に必要となるのはかなり先」なのかを考えるのです。もし、必要になるのが10年後以降であれば、「必要なときに要件を再定義して作り替える」のです。

千石君:要するに「リフォーム」ですよね。

本郷氏:そうとも言いますね。将来に備えることも重要ですが、10年後の生活スタイルが現在の想定とは異なることはよくありますよ。というよりも、想定通りになるご家庭の方が少ない。リフォームも視野に「今、必要な間取り」を考えてはいかがでしょう。私どもではリフォームも取り扱っておりますので、その節には、何なりとご相談ください。

千石夫人:あら、ちゃっかりと宣伝されているわ。

本郷氏:いえいえ、完成した住宅をお客さまに明け渡す際には、きちんとした設計図面なども一緒にお渡ししますので、私ども以外の業者にリフォームを依頼される場合でも、困ることはございません。

千石夫妻:そうですか。ありがとうございました。

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