米メリーランド州のボルティモアに本社を置くInsilico Medicineは、創薬に特化した人工知能(AI)の会社であり、新薬開発に取り組んでいる医薬化学者の脳の働きをAIに学習させることを目指している。
これが成功すれば、今よりもずっと速く、新たな薬や改良された薬のアイデアを生み出せるようになるかもしれない。
同社が「Chemistry.AI」と呼ぶこのクラウドソースプロジェクトの成功は、高度な訓練を受けた医薬化学者の行動をモニタリングしてデータを収集し、AIでその複雑な意思決定プロセスに関する知見を生み出せるかどうかにかかっている。
意思決定プロセスについてのデータを得るため、プロジェクトに参加する医薬化学者は、EMOTIVという会社が作った脳波計測用のヘッドセットを身につけて作業を行う。EMOTIVのヘッドセットは、頭の動きや表情も記録でき、カメラによって装着者の目の動きも追うことができる。
データ収集のプロセスでは、医薬化学者はコンピュータの画面に表示されたさまざまな分子モデルを見るが、その中にはInsilico MedicineのAIが生成したもの、人間が描いたもの、臨床試験ですでに失敗したものや成功したものが含まれている。
Insilico Medicineの創業者Alex Zhavoronkov博士によれば、「何年かの実務経験を持つ医薬化学者は、分子構造や、数値的な特性とさまざまなスコアを見るだけで、よい分子と悪い分子を見分けられる」という。
ヘッドセットは、被験者がコンピュータの画面上で分子モデルを見て、その分子が人間に対して毒性があるかどうかなどの仮説を立てる際のプロセスを記録する。データの収集が進めば、深層学習AIが効果のある安全な分子の作り方を学ぶことができる可能性がある。
AIを使ったプロセスが実現すれば、新薬を考案するスピードが上がるだけでなく、最高の訓練を受けた医薬化学者でも見逃してしまう問題を減らせるかもしれない。
「化学に関する経験の種類や、それまでの経歴によって、医薬化学者の判断には偏りができることも多い」とZhavoronkov氏は説明する。
同社は、優れた医薬化学者から十分なデータを収集することによって、新薬を開発しつつ、人間の研究者につきものの先入観の影響を弱めることができるAIを作ろうとしている。
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。