機械、特にコンピュータで制御された機械は、人間の代わりにさまざまな作業を自動化してくれる。技術の発展により、自動運転車の実用化もかなり現実的になってきた。あるいは、コンピュータの画面上で行われる業務を自動化しようというRPA(Robotic Process Automation)も話題になっている。
ほとんど定型的な作業から臨機応変に対応が求められる作業までレベルはさまざまであるが、そこには多くの場合、自動化システムとユーザー(人間)との関わりがあり、ユーザーエクスペリエンス(UX)を考える余地がある。今回は、自動化とUXについて考えたい。
自動運転車とUXデザイン
安全性が十分に確保されれば、自動運転は楽だしありがたいと考える人は多いだろう。一方で、自動車の運転は「楽しみ」であり、自動運転なんて味気ないと思う人々もいるだろう。自分の身体を延長するように道具類を自在に使い「自分の能力」を拡張したかのごとく感じさせるのは、心地よいUXデザインのもたらす恩恵の一つであり、自動車の運転にももちろんそういう要素がある。いわゆる「走る喜び」である。
では、どこまで自分で制御できればユーザーは満足できるのだろうか。
ギア比を手動で変えるマニュアルトランスミッション(MT)の乗用車は、このところあまり見かけなくなってしまったが、オートマチックトランスミッション(AT)が出始めたころには、やはり「味気ない」などと言う人たちがいたと聞いた覚えがある。現在ほどはギアチェンジが滑らかではなく、そのタイミングも含めて運転中に違和感を覚えることも多かったと思われる。しかし、やがて技術の進歩とユーザー側の「慣れ」によってだんだん違和感が薄れていき、ほとんどの人が気にしないようになっていった。
最近では、障害物などを検知したときのブレーキアシストや、走行速度・車間距離を維持するクルーズコントロールなどの機能が搭載された自動車も増えてきており、「自動化」の範囲は徐々に拡大している。AT車と同じように初めは多少の違和感を覚えたり、面白みがないと思われたりしても、多くのユーザーにとって労力が格段に減る(楽になる)のであれば、次第に受け入れられなじんでいくだろう。
カメラのオートフォーカス
似たようなことは、カメラのオートフォーカス機能にも当てはまる。良い写真を撮ろうとすると、自由自在にピントを操ることが要求されるため、当初はオートフォーカスを否定するような声も聞かれた。しかし、手動でのピント合わせは初心者にとってハードルが高い作業だ。自動車と違って必要なときだけマニュアルに切り替えることもできるため、オートフォーカス機能は広く普及した。
狙ったところにピントを合わせるのは、(並大抵のユーザーであれば)カメラに任せた方が正確で速い。しかし、「どこを狙うか」の判断をカメラが推測するのは簡単ではない。そこで、スマートフォンのカメラやコンパクトデジタルカメラなどであれば、画面上でピントを合わせたいところをタッチで指定できるようにしている。さらに、ユーザーの視線を検知して自動でピントを合わせてくれる機種もあった(あまり性能が出なかったのか、現時点では下火になっているようである。高性能化してまた搭載されるようになるかもしれない)。
これをユーザー側の視点から考えると、狙いたいところをフォーカス調整で「間接的」に指定していたものが、より「直接的」に指定できるようになったと捉えられる。どちらの方がより細かく精度の高い操作ができるかという見方もあるが、操作が楽になり十分な性能であることに大きな異論はないだろう。