日本IBMは5月14日、2018年5月にリリースした「IBM Cloud Private for Data」の活用を促進するData and AI事業の戦略説明会を開催した。Data and AI事業は旧来のWatson事業、アナリティクス事業を傘下に持ち、今年新設した部門である。グローバル全体で再編成された。
同社理事 IBMクラウド事業本部 IBM Data and AI事業部長 黒川亮氏は「シンプルかつ信頼できるデータ&AIプラットフォームとしてCloud Private for Dataを顧客へ提供し、(これまでIBM Cloudに限定していた)Watsonサービスをデータ格納場所、たとえば他社のパブリッククラウドやオンプレミスで利用する『AI Watson Anywhere』。(新たに3つのプログラムを追加した)データ&AI人材スキル育成支援プログラムを通じて、(AI検証から運用フェーズに移る)顧客のDX(デジタルトランスフォーメーション)第2章を推進する」と概要を説明した。
IDCジャパンが2018年6月に行った調査によれば、日本の人工知能(AI)市場は順調に成長しているという。2016年ごろは部門単位での実証実験の段階だったが、2017年に入ると270億円規模まで拡大。Gartnerなどは2018年をAIを“幻滅期”としているが、他方でAI技術が業務課題を解決した部門は全社展開に着手したと指摘されている。黒川氏は2900億円まで拡大すると見られるAIの2019年について「本格運用に入った年」と捉えている。
日本IBM 理事 IBMクラウド事業本部 IBM Data and AI事業部長 黒川亮氏
同社が2018年に行ったユーザー調査によれば、AIをすでに導入している企業の割合は、類似企業と比較して売上高や利益率の高い“高業績企業”が28%、その他の企業が6%と大きな差が生じた。黒川氏は「積極的なAI活用の機運が生まれている」と説明する。
現在世界45カ国20業種以上の企業に導入されているWatsonだが、顧客へのAI導入を通じて見えてきた課題があると説明。アクセスできないデータやデータ自体の信頼性、データの管理といった課題は各所で語られている。「AIレディなデータはプロジェクトスタート時は30%未満。クレンジングに9割の努力が必要だ」(黒川氏)
運用フェーズに入ると人材の割り当ても減り、AIスキルを兼ね備える人材を効率良く回す必要がある。また、継続的な学習やAIモデルの監視、導入効果の測定といったライフサイクルも「(AIが)業務の価値に刺さったか否か見直す必要がある」(黒川氏)
そして倫理観を持たないAIは学習データに大きく左右されるため、学習データとAIモデルのトレースやAIによる予測などのアウトプットデータにバイアスが含まれている可能性も考慮しなければならない。近年ではAIの信頼性を問う、“説明可能なAI(Explainable Artificial Intelligence:XAI)”というキーワードも登場している。
「グローバルでは人種や年齢などに関心が集まるものの、日本はアウトプットデータに偏りがないか説明責任を問われるケースがある。とある企業は3年間の取り組みを見直し、AIがもたらす効果は限定的と判断」(黒川氏)したケースもあるという。
このような背景を踏まえてCloud Private for Dataは、データやモデルなどを検出する「Watson Knowledge Catalog」、AIモデルの構築やトレーニング、デプロイを行う「Watson Studio」、AIモデルを実稼働させる「Watson Machine Learning」、AIを操作、自動化できる「Watson Open Scale」をパッケージングするとともに日本語で利用できるようになっている。