JOCDNは3月4日、報道機関向けに事業戦略説明会を開催した。特に若年層を中心に動画を視聴する習慣がテレビ放送からネット利用へとシフトする傾向が強まる中、主要テレビ局との協力関係を生かしてCDN(コンテンツ配信網)事業の強化に取り組む方針を明らかにした。
代表取締役会長の鈴木幸一氏は、同社の設立母体であるインターネットイニシアティブ(IIJ)を設立した時点で、既に「あらゆるメディアがネットで配信されるようになる」というビジョンがあったことや、IIJでのCDN事業への取り組みが1998年から開始していることなどを紹介。この分野で既に豊富な経験を有していることを明かした。
(左から)代表取締役会長の鈴木幸一氏、取締役の福田一則氏、代表取締役社長の篠崎 俊一氏
JOCDNは2016年、当初はIIJと日本テレビ放送網の合弁会社として設立されたが、その後国内のテレビ局各社を株主に加え、2020年2月には日本放送協会(NHK)を引受先とする第三者割当増資が実施されたことで株主社数18社で主要テレビ局を網羅する「オールジャパン体制」(鈴木氏)となっている。また、4K/8Kといった高精細テレビを電波で放送するための周波数帯域の確保が技術的にも困難になりつつあることから、今後テレビ放送のネット配信がより重要になってくるとした。
続いて、取締役の福田一則氏が、国内の動画配信市場の動向について説明した。同氏は、「2019年定額制動画配信サービスの市場規模は2158億円と推定。このうち、CDNサービスの利用料は100億円前後(5%)程度」と推定するデータを紹介する一方、日本国内のCDNサービスのためのサイト数(URL)をベースとしたシェア推定では大半が海外CDN事業者であり、同社を含む国内CDN事業者のシェアは数%程度にとどまっていることを明かした。
サイト数に基づく日本国内のCDN事業者のシェア推定。大半は海外の事業者が占めており、国内事業者のシェアは数%程度だという
最後に、代表取締役社長の篠崎俊一氏が事業概況について説明。海外CDN事業者が圧倒的なシェアを持つ中、同社がどのような取り組みを行っていくかを明らかにした。同氏は「今後、動画配信の役割が高まっていく中で、高品質・安定的・リーズナブルな価格でCDNを提供するために、放送における送信設備のような位置付けでCDN事業を推進」していくとした上で、今後の主な取り組みとして「同時配信に向けた取り組み」「動画配信参入のハードルを下げるための取り組み」「積極的なR&D活動」の3点を挙げた。
JOCDNのサービスの特徴。システム構成面から見ると、IIJの東京と大阪のデータセンターにキャッシュサーバーを配置し、オリジンサーバーの負荷軽減を主眼としているように見える。一方、主要海外CDN事業者は、よりエンドユーザーに近い各ISPのネットワーク内にキャッシュサーバーを配置してユーザーエクスペリエンスの向上にも注力している。JOCDNではIIJの知見も生かしたネットワーク設計の工夫でパフォーマンスの向上に取り組んでいると言うが、今後海外CDN事業者と競争していく上ではキャッシュサーバの配置をどうするのかがポイントになるように思われる