在宅勤務の特権を享受するものは、相応の経済的な負担を負うべきだ--こんな考え方を前提としてドイツ銀行の経済学者らが書いたレポートが、ちょっとした波紋を引き起こしている。
新型コロナウイルス収束後に訪れる「ニューノーマル(新たな常態)」の中でも在宅勤務は続くが、この状況は、対面での仕事を前提に長年かけて築かれてきたインフラを基盤とした経済に、大きな問題をもたらすという主張だ。導き出された解決法は、経済全般や在宅勤務ができない人々を支えるために、リモートワークに課税すべきだというものだった。
レポートでは、「リモートワーカーに対する課税の必要性は以前から存在しており、新型コロナウイルスはその必要性を顕在化させただけだ。単純な問題として、私たちの経済システムは、対面社会から自分を切り離せる人たちに対処できるようになっていない」と述べている。
2020年に起こった新型コロナウイルスの流行を受けて、政府が労働者にできる限り外出を控えるよう求めたことで、在宅勤務の拡大トレンドが加速した。ロックダウンが解除されても、フルタイムでのオフィス勤務が全面的に戻ってくる可能性は低い。
レポートの著者は、リモートワーカーや、スタッフに通勤するオフィスを提供しない企業に比較的低額の税金(例えば1日10ドル)を課すべきだと主張している。
反論はいくつも考えられるが、とりわけ問題だと考えられるのは、オフィスに通勤してランチタイムにサンドイッチを買わないからという理由で、在宅勤務者に課税するという発想には難があることだろう。この考え方はいくつもの新たな疑問を生み出す。
課税には問題が多い
経済が動かないことが問題なのであれば、弁当持参で自転車通勤する人にも課税されるべきなのか。逆に、都市部に高級車で乗り入れ、毎日レストランでゆっくりとランチを取る人には減税すべきなのか。
在宅勤務が可能な人の多くは、看護師などをはじめとする現場で働く労働者がもっと報われるべきだという意見には賛成するだろう。しかし政府が、在宅勤務者が払った税金を、そうした労働者のためだけに使うことは考えにくい。税収はそのまま一般的な支出に消えてしまう可能性が高いはずだ。
さまざまな理由から、在宅勤務税が実際に実現する可能性は低い。
しかし、本当の問題はそこにはない。むしろ問題は、ドイツ銀行の経済学者が、100年以上に渡って世の中を支配してきたオフィスがなくなれば、大きな変化が起きると指摘していることだ。変化の一部は前向きなものだろうが、そうでないものも出てくると考えられる。