テクノロジー業界における大きな謎のひとつとなっているのは、「ビットコインを発明したサトシ・ナカモト氏という謎の人物は実際のところ何者なのだろうか」ということだ。最近、世界一人気の暗号資産(仮想通貨)ビットコインの発明者は自分だとLinus Torvalds氏が主張している、と考えた人がいたようだ。あの世界で最も人気のOSであるLinuxと、最も人気の開発ツールであるGit分散バージョン管理(DVC)システムを開発したLinus Torvalds氏のことだ。彼が、謎の人物サトシ・ナカモト氏だというのである。
話の発端は、暗号資産ニュースサイトのBeInCryptoだった。あるライターが、「Linuxを生み出したLinus Torvalds氏が、自分はビットコインの生みの親であるサトシ・ナカモト氏だと主張しているようだ。これは冗談なのか、それとも本当なのか」という議論を展開したのだ。
この議論の背景には、GitHubのLinuxカーネルリポジトリーで、Torvalds氏がLinuxカーネルの1行を変更したことにある。その変更が、「Name = I am Satoshi」だったのだ。
これに多くの人が飛びつき、あちこちでニュースとなった。「彼はサトシなのか?違うのか?」という大きな疑問が、TwitterやReddit、Y Combinatorで議論された。
2000年代後半にはそんなことを気にする人は誰もいなかった。確かに、「ビットコイン:ピア・ツー・ピアの電子キャッシュシステム」というサトシ・ナカモト名義の論文は存在するが、だからといってどうってことはない。それまでにも行き着く場のない論文など多数存在したではないか。しかしナカモト氏は、のちに最初のビットコインプログラムであるバージョン0.1を、初期のオープンソースコードサイトSourceForgeで公開、ビットコインのジェネシスブブロックであるブロックナンバー0でネットワークを立ち上げた。そこから暗号資産競争が始まり、現在もその競争は続いている。
しかし、当時も今もサトシ・ナカモト氏が誰なのかはわからないままだ。自身の正体について何の手がかりも残さないまま、ナカモト氏は2010年半ばよりビットコインに積極的に関わることはなくなったとみられる。以来、インターネットから姿を消したのである。
ナカモト氏の身元を探る動きはこれまでにも多数存在した。例えば、2014年にはNewsweek誌が、サトシ・ナカモト氏はカリフォルニアに住むサトシ・ナカモトという名のおとなしい日本人男性だと、「盗まれた手紙」(Edgar Allan Poeの小説)風の語り口で書かれた記事にて主張し話題となった。実在するナカモト氏は記事を否定し、すでに最有力候補とは考えられていない。オーストラリアのコンピュータサイエンティストであるCraig Wright氏が、自分がナカモトだと主張したこともあるが、同氏はオリジナルのビットコインを管理している証拠を示すことができていない。