アドビは、オランダのアムステルダムで開催される国際放送機器展「IBC」への出展に先立ち、動画編集ソフトウェア「Adobe Premiere Pro」をはじめとしたビデオ製品の最新アップデートについて説明会を開催した。新機能は9月13日からベータ版として提供し、秋頃に順次一般提供を開始することを予定している。
Premiere Proは、プロの映像制作者を中心に幅広い人々が利用しており、第95回アカデミー賞で7部門を受賞したSF映画「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」の制作でも用いられたという。
説明会に登壇したマーケティング本部 マーケティングマネージャーの田中玲子氏は「特に日本では動画編集への関心が高まっている」と説明。コロナ禍を経て動画の有効性を認識した企業では、リスキリングとして動画の内製化に取り組む動きが見られるという。
今回のアップデートに当たりAdobeは、プロの映像制作者の意見をヒアリングしたほか、これまで高い技術が必要だった作業をAIで効率化し、これから映像制作に挑戦する層の取り込みも図る。
Premiere Proでは、AIで動画の雑音を除去するスピーチ強調機能を提供。同機能は、音声収録/編集を支援するサービス「Adobe Podcast」において「Enhance speech」という名称で既に提供されており、利用者から高い評価を受けているという。
説明会で実施されたデモンストレーションでは、「スピーチを強調」内の「拡張」ボタンを押すと、Premiere Pro側が音声と雑音を判別。雰囲気を出すために雑音を少し残したい場合は、「ミックス量」を示すバーで自由に調節できる。
拡張ボタンを押したところ、雑音が排除され、スピーカーの音声がクリアに聞こえた
Adobeは5月、文字起こしベースの編集機能を提供。ユーザーは、文字起こしされたテキストを選択・削除すると、動画内容も合わせて編集される。同機能は現時点で18カ国語に対応しており、話者の判別も可能。「テキストを選択・削除するスキルさえあれば、動画編集ができると言っても過言ではない」と田中氏はアピールした。
同機能の一環としてAdobeは今回、フィラーワード検出機能を提供。フィラーとは「言いよどみ」を意味し、日本語だと「あのー」「えー」などが挙げられる。同機能は、言葉が詰まったことによる沈黙といった「間」にも対応。該当箇所を自動で検出し、ユーザーはワンクリックで削除できる。同機能は、文字起こしベースの編集機能を利用する上で最も求められていたという。
デモンストレーションでは、文字起こしベースの編集機能により、「それでは本番でカメラ回します」といったコンテンツ以外の箇所を選択・削除すると、動画にもリアルタイムに反映された。フィラーワード検出機能では、「一時停止」ボタンを押すと、文字起こしで「・・・」と表記された間を自動で検出。一定以上の秒数の間のみを削除することも可能だ。
アドビの従業員が制作する動画コンテンツ。動画内製化にも活用が期待される
モーショングラフィックスやビジュアルエフェクトの作成を支援するソフトウェア「Adobe After Effects」では、True 3Dワークスペース機能を提供。同機能によりユーザーは、3DのオブジェクトをAfter Effectsに読み込ませることが可能となる。同機能は、高性能なGPUに対応する3Dエンジンを搭載することで実現した。3Dと2Dのオブジェクトを混在させることもでき、例えば「アピールしたい商品は3D、背景は2Dで表現する」といったことも可能となる。
True 3Dワークスペース機能を活用した動画イメージ。商品のボトルは3D、背景の果物は2Dで表現できる