ヘルシンキを拠点とするWithSecureは現地時間5月28〜29日、同社年次カンファレンス「SPHERE24」を開催した。初日のメディア向けセッションでは同社で最高リサーチ責任者(CRO)を務めるMikko Hypponen氏が登壇した。
同社の前身であるData Fellowsに6番目の社員として入社したHypponen氏は、サイバーセキュリティ企業が全てスタートアップだった頃のことを今でも覚えていると述べ、いつものように上着のポケットからフロッピーディスクを取り出す代わりに、パンチカードを見せた。
パンチカードを見せるMikko Hypponen氏
セキュリティ業界で長く働く同氏は、セキュリティの状況を見た時、自分たちがいかに良い状態にあるかを認識するようにしているという。現在、新たなデータ流出、情報漏えい、感染拡大などが日々報じられ、良い状態にあるとは決して思えないが、「一歩下がって、10年前を振り返ってみよう」と同氏。2014年に主流だったのは「Flash」の悪用だ。
現在と10年前では、コンピューティングに使うデバイスのセキュリティは異なると同氏は指摘する。今日、コンピューティングの大部分はスマートフォンやタブレットで行われる。これらのユーザーは、自身のデバイスをプログラミングする権利を手放す代わりに、優れたセキュリティを手に入れることができる。「だから、良い状態にある」と同氏は述べ、「勝っているとは言わないが、悪いニュースばかりではない」とし、新しいシステムやアーキテクチャーが構築され、WithSecureのような企業が提供するセキュリティーもあると続ける。
ただし、攻撃者もじっとはしていない。同社は現在、中堅・中小企業に注力しているが、そのような企業はさまざまなセキュリティ上の問題を心配するものの、自衛のためのリソースや予算がある大企業と異なり、十分なサービスを受けていないという。このようなシナリオ全体に目を向けた場合、常に浮かび上がってくるのがAIだという
「誰もがAIに熱狂しているのには理由がある。技術革命は、今日の社会を何よりも大きく変える」(同氏)。インターネット、モバイル、ソーシャルメディアとさまざまな技術革命が起き、人々の生活に利便性をもたらしてきた。ただし、それだけではない。全ての技術革命がプラスとマイナスの面を持ち、プラスだけを享受することはできないとHypponen氏は同カンファレンス2日目の講演でも指摘している。
人は、技術革命に直面した時、そのスピードを過大評価し、規模を過小評価する傾向にあるという。「革命が起こると分かっていても、それが世界をどう変えるか、少し先の未来を正確に見通すのは難しい」(同氏)
Netscape設立前のMark Andreessen氏が「Mosaic」ブラウザーについてインタビューを受けた際、同ブラウザーで何ができるかを質問され、「何でもできる」と回答したという話にHypponen氏は触れ、まだ何も存在していないため、「天気予報やニュースをネットで見られるようになる」といった具体例を思いつくことができていないと指摘する。「今、自分たちはAIにおいてどうなのか。AIで何が起こるかを本当に分かっていない」と同氏は説く。
生成AIの用途の一つとして、異常検知システムがある。顧客のネットワークに設置され、データを収集し、その組織における通常の一日についてビューを構築し、それとは異なる動きがあれば検知する。こうした仕組みは、大惨事になる前に情報漏えいなどの可能性を警告する。このようなメカニズムは汎用で、ビルの管理システムといった目的にも利用できる。ビル内の特定の場所に行ったことがない従業員が、夜中の2時にそこにいるといったことを検知する。「この種のシステムは強力だ。コンピューターは人間よりもデータを解析するのが得意だ」(Hypponen氏)
生成AIシステムを構築している企業については、どのように考えるべきか。OpenAIは、人工汎用知能(AGI)の構築をミッションとしていた。AGIの構築は、私たちができることなら機械でもできるようになることを意味するが、AIが人間のレベルで止まる理由はないと同氏。AIにそのソースコードを与え、「小さな改善で構わないので加え、コンパイルし、新しいバージョンを自身に適用することを何度でも繰り返す」ことを命じると、人間の知性の限界を越えるものに行き着く可能性がある。「とても素晴らしく、同時にとても恐ろしいことだ。自分の生物圏に優れた知性を導入することは、基本的な進化の過ちのように思えるが、どうだろう。彼らがやろうとしていることはそういうことだ」とHypponen氏はいう。
OpenAIはユニバーサルベーシックインカムについて真剣に研究しているという。私たち全員が失業し、全ての富がAIによって生み出される未来を見ているからだとHypponen氏は語る。「結論に飛びつき、この革命のスピードを過大評価するのは簡単だ。おそらく明日や来年には起きないだろうが、いつの日か起きるかもしれないし、起きた場合には、私たちが今考えたり想像したりするよりも大きな変化になるだろう」(同氏)