Mikko Hypponen氏
フィンランドを拠点とするWithSecureは現地時間5月29日、同社年次カンファレンス「SPHERE24」の2日目をヘルシンキにあるCable Factoryで開催した。
MIT Media LabのKate Darling氏やDigital DisruptorのThomas Anglero氏、ForresterのシニアアナリストであるErik Nost氏らに続き、WithSecureで最高リサーチ責任者(CRO)を務めるMikko Hypponen氏が最後に登壇した。
Hypponen氏は、かつて分析した1992年登場のロシア製マルウェア「Phantom」を紹介し、フロッピーディスクで広まったことに言及。「ある種、義務的なしきたりのようになっているが」と言いながら、フロッピーディスクを上着のポケットからいつものように取り出した。
ここ数年、技術によって社会がどう変わったかについて考えていたとし、技術は、産業革命以降、他のどんなものよりも速く、私たちの世界を変えてきたと述べる。電気の革命、インターネットと呼ばれる接続性の革命、あるいはAIの革命。これほど早く世界を変えたものはないだろうとしつつも、「これらは全てトレードオフの関係にある」という。
これらの技術革新から素晴らしいものを得ることができる。しかし同時にマイナス面も得ることになる。何かが発明されて技術革新を起こす時、好むと好まざるとにかかわらず、それは私たちとともに永遠にあることになる。
「私たちは物事を消し去ることはできないし、発明を取り消すこともできない。イノベーションは、たとえ皆さんが消したいと望んでも消えない。そして、多くの場合、私たちはそれを消したいとは考えない」
例えば、インターネットを見た場合、私たちに多くの良いこと、恩恵、新しいビジネスチャンス、新しい形のエンターテインメント、多くの形のコネクティビティーをもたらしてくれた。一方、ネット犯罪、ネットリスク、ネット戦争などをもたらしてもいる。私たちはただ良い面だけを享受することはできず、悪い面も手に入れることになる。インターネットは偉大でもあり、最悪でもあると同氏はいう。
「マイナスよりもプラスの方が明らかに大きいことから、このまま消えてほしいとは思わない。マイナス面を受け入れるしかない」(Hypponen氏)
インターネットが私たちにもたらした変化のもう一つの例は、ソーシャルメディアだ。2006年、Timeは「今年の人」に「あなた」を選んだ。その理由は、ソーシャルメディアが主流になり始めた時期だったからだ。
以前は、テレビやラジオ、新聞のような中央的な情報源から情報を得ていた。ソーシャルメディアができたことで、誰もが、自分の考えを発表できるようになった。ソーシャルメディアには良い面もあるが、悪い面もある。意見が二極化し、陰謀論がかつてないほどよく語られるようになっている背景にはソーシャルメディアがあると同氏は指摘する。
別の例としては、暗号化技術がある。解読不可能な強力な暗号化アルゴリズムがおよそ30年前に発明された。地球上の計算能力では解読できない、解読するのに何千億年もかかる長い鍵を使うこの技術こそが、私たち全員に安全とプライバシーを提供するHypponen氏。
私たちは、このような強力な暗号化をネットサーフィンやオンラインバンキング、メッセージを送る時に毎日使っており、「これは素晴らしいことだ」と同氏は語る。
しかし、犯罪者やテロリストのような悪人がこれらの技術を使うのはよくないことだ。とはいっても、この発明を取り消すことはできない。しかし。強力な暗号化を使うことは悪いことであり、違法であるとする法律を制定することはできる。
だが、犯罪者は法律を破る。そのため、このような法律を作れば、強力な暗号を使うのは犯罪者だけになる。「損をするのはあなたや私だ」(同氏)
一度発明されたものは、取り除くことができなくなるというのはこういうことであり、ランサムウェアはその好例とHypponen氏。「強力な暗号化技術がなければ、身代金を払わない被害者のファイルを復元できないよう暗号化することは不可能」(同氏)
そして、このランサムウェアという問題は、素晴らしくも恐ろしい、もう一つの問題と密接に結びついているという。それは、仮想通貨(暗号資産)だ。
ビットコインは本物のイノベーションであり、ビットコインを動かしているブロックチェーンは、非常に現実的で本物の大きなイノベーションだとHypponen氏は語る。しかし、仮想通貨の悪い面を見つけるのは簡単だ。犯罪者が常に使用しているというのは明らかだ。
オンライン犯罪組織LockbitやAkiraは、攻撃を仕掛けることで多額の資金を稼ぐ。さらに悪いことに、彼らは、ビットコインのような仮想通貨で何年も富を保ってきた。