450社を超える企業のAWS導入・移行を支援
サーバーワークスがアマゾン ウェブ サービス(AWS)のサービスに最初に触れたのは2007年のこと。当時サーバーワークスは大学の合否判定サービスを提供していたが、インフラは合格発表が集中する2月にしか使われなかったため、一時的にリソースを借りることができるAWSの活用を検討した。実際に使ってみて「これはすごい」と今後のビジネスに大きなインパクトをもたらすことを直感。2008年に「社内サーバ購入禁止令」を発布してAWS活用へ大きく舵を切り、2009年には新規案件はAWSだけというAWS専業ベンダーへと業容を転換した。

サーバーワークス株式会社
代表取締役 大石良氏
事業拡大の転機となったのは東日本大震災の際にボランティアで取り組んだ日本赤十字社への義援金管理システムの提供だ。AWSを活用し、環境構築に2時間、アプリ開発に48時間というスピード感で義援金活動をサポート。「3月14日に打ち合わせをし、3月15日に赤十字社のサイトを復旧して、17日から義援金受付を開始しました。AWSは震災後の迅速な義援金募集に一役買ったことを高くご評価いただきました」と大石氏は話す。その後、多くの企業がクラウドの持つパワーを認識してビジネス展開に積極的に取り入れるようになる中で、サーバーワークスはこれまで450社を超える企業のAWS導入・移行を支援してきた。
大石氏によると今最も多い案件が既存システムのAWSへの移行だ。AWSは現在、インフラだけでなく、プラットフォームからアプリケーションにいたるまで非常に多岐にわたるサービスを提供している。それらサービスを活用すると、クラウドに移行できないシステムはほぼ存在しないと言えるまでになっている。大石氏はそうした現在の状況を踏まえながら、AWS移行のポイントについて次のように紹介する。
「AWSへの移行には代表的なアプローチが大きく3つあります。それぞれのキーワードは、Lift-and-Shift、Desktop Anywhere、All-in。社内システムの状況を見ながら、3つのアプローチを検討していくことで、AWS移行を効率的に行うことができます」
(1) Lift-and-Shift ―― インフラ部分だけAS-ISでAWSに移行
1つめの移行アプローチであるLift-and-Shiftは、文字通り「荷物をいったん持ち上げて、シフトさせる」の移行方法だ。エンタープライズのシステム移行では、移行にあわせてシステムのアーキテクチャやアプリ改修、サービスの改善を施すことが多い。インフラのリプレースの時期にアプリやサービスの改修を合わせることで効率的なシステム更改を行うことが目的だ。ただ、クラウドへの移行では、こうしたアプローチは重荷になりやすい。そこで役立つのがLift-and-Shiftだ。
「マネージドサービス利用によるシステム最適化に際して、運用手順などの変更を伝播するためには合意形成や手順書の作成などで時間がかかってしまうケースもあります。その場合、まずはインフラ部分だけAS-ISでAWSに移行するアプローチが現実的なのです」(大石氏)
既存環境のままインフラごとそっくり持ち上げて移行し、アプリやサービスはその後少しずつ改修していくわけだ。ただ、こうしたLift-and-Shiftの方法では、移行後にネットワーク構成が変わったり、アプリの改修が難しくなるといった課題がある。だが、AWSには、それらを解消し、さらに発展させていくためのサービスが充実している。
「AWSというと、サーバであるAmazon EC2(Amazon Elastic Compute Cloud)やストレージであるAmazon EBS(Amazon Elastic Block Store)/Amazon S3(Amazon Simple Storage Service)といったIaaSに注目しがちです。ただ、本当のメリットは、ネットワークや周辺ツール、アプリケーションのライセンスといったサービス面にあります」
例えば、ネットワークではAmazon VPC(Amazon Virtual Private Cloud)などのSDN機能が充実している。クラウドへの移行では一時的にでもオンプレミスとのハイブリッド環境を管理する必要が出てくる。その際、面倒なネットワーク設定をソフトウェアの観点から隠蔽して、あたかも社内LANを管理するかのようにAWSのクラウド環境を管理できるようになる。もちろん、VPNや専用線接続を使って、セキュリティや信頼性を確保することも可能だ。
Lift-and-Shiftの事例としては、200台超の仮想サーバを3カ月でAWSに移行したインテージや世界中に分散した2000台のサーバをAWSに移行した丸紅などを紹介した。